無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

悩み相談・実践編。

兄貴、危機一髪!スペシャル・エディション(初回限定盤)(DVD付)

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 アクセル全開のパーティー・アルバムだった1stと、そこから一歩踏み出してシリアスな面を強調した2nd。どちらもアンドリューW.K.という人の本質であるわけで、今作は音楽的にも内容としても過去2作の総決算であると同時に、新たなエネルギーに満ちていると思う。彼の音楽というのは非常にストレートでわかりやすく、エネルギッシュなものであるのだけど、それしかわからない、それしか知らないからストレートになるのではなく、いろいろ紆余曲折を経て複雑に悩んだ挙句、最も有効な手段としてストレートな表現を選択しているという気がする。だから不思議な説得力があるのだ。
 某音楽雑誌で行っている読者の悩み相談を見ていてもわかるが、彼は自分の身の回りのことはもちろん、異国の地に住む人間の日常生活についても自分の経験や考えから、状況を打開するためのヒントを考えることのできる男だ。そこからは、彼の真摯な人柄と、どんな状況も自分の身に置き換えて考えることのできる想像力と感受性の豊かさを感じることができる。彼の作る音楽も結局同じ事で、全てが彼の経験に基づいて書かれた物語でないにしても、そのどこかは聞き手自身の生活とリンクしている部分があるのである。「オレはこう思うよ。君たちはどうだい?」と語りかけてられているような気がしてくることがある。一方通行ではない、愚直でアナログなコミュニケーション。骨折しても車椅子で全力のパフォーマンスをする彼を目の前で見た人間としては、とにかく彼の目を真っ直ぐに見て応えようという気になってしまうのだ。よりポップで幅広いアレンジの曲が多いが、決して散漫にならないのは、どの曲にも彼の人間性がその中心にしっかり存在しているからなのだと思う。
 もはや日本のレコード会社の意地と化している感のあるおバカ邦題だが、今作の個人的ベストは「PUSHING DRUGS」=「ダメ、ゼッタイ!」でした。