無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

孤独の集大成。

PARADE (初回限定盤)(DVD付)

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 昨年、「熱闘甲子園」のテーマソングをスガシカオが手がけると聞いたときに違和感を覚えた人は少なくないと思う。スガシカオの曲というのはむしろ教育上よろしくないテーマを扱ったものが多く、高校球児の汗と涙には不釣合いだと思わざるを得なかった。しかし、その「奇跡」や「夏陰」といった曲は、彼の爽やかサイドを代表する曲と言ってもよく、堂々とその大役を果たしていた。前作『TIME』がかなりヘヴィーな曲が多かったこともあるのかもしれないが、前述の2曲や「午後のパレード」など、明るいポップな曲調が多いのが一聴しての印象だ。
 しかし、よく聞いていくとやはりどこか陰りのある、内省的なテーマが根底に流れていて、彼としてはどう思うのかわからないが、個人的には「ああ、スガさんだ」と思って安心する。「19才」のような背徳的な匂いのする妖しい歌詞はまさにそうだし、「38分15秒」など、テレフォンセックスの曲だ。テレクラなどではなく、ちゃんとした恋人同士の歌らしいのでまだマシだが、こういう曲を黄色い声援を送る婦女子の部屋のCDプレーヤーに投下するというのはそれはそれで立派にプレイとして成立しているとは言えまいか。この曲に限ったことではないが、スガシカオの曲に登場する性的な描写は、男と女の性行を描いたようなものであっても、どこか自慰的な要素を感じさせる。以前、僕は彼の曲について「恋愛じゃ人は本質的に幸せになんかなれないというところから逆算して曲を作っている」と書いたことがあるが、この論に通じるのかもしれない。自分の一番気持ちいいところは自分が一番知っている、というか。そんな人が「斜陽」のような曲を作るところに、個人的にはグッと来る。
 デビューして10年、彼自身ももう不惑を迎える年齢であり、アーティストとしてのキャリアも一回りした感があるが、それでも、シーンの中で彼のようにファンクベースの音楽をポップスとしても、ロックとしても絶妙の距離感で成立させられるアーティストはなかなかいない。歌詞においては言うまでも無く。