無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

通過儀礼として。

39108 (初回限定盤)(DVD付)

39108 (初回限定盤)(DVD付)

 全ての楽曲を海外で、地元のミュージシャンとエンジニア、プロデューサーと共にレコーディングしたソロ3作目。というわけなので、音そのものは非常に本格的な、ほぼ洋楽といっていいくらいの骨太な音が鳴っている。メロディーも詞もなかなかいいのだけど、勢いでガッと作ったというような、いい意味で乱暴な作りになっている。「BEAUTIFUL」や「BELIEVE」なんかは、もっといやらしく盛り上がるように作ろうと思えばいくらでもできる曲だと思うけど、どこかあっさりとしている。このアルバムで彼がやろうとしていることはそういうことではないんだと思う。
 思うに、過去2作のソロ作というのは良くも悪くもイエローモンキーというバンドの影から逃れられない(言い換えれば、本人がその縛りから逃れていない状態で作られた)アルバムだったと思う。意図的にイエモンとは違う方向を突き詰め、自身の内面と向き合わなければならなかった1作目と、イエモン解散発表後初のアルバムとして、1作目の反動という形で無理矢理に外に開ききった2作目。というような。いずれにしても、YOSHII LOVINSONという別名で活動している時点で、彼を縛っていた殻からは逃れられていなかったと言うことだと思う。吉井和哉名義に変更し、名実共にソロ活動の全てを図の自分自身で受け止めようということになったのは、ライヴを行い、その中で変化していったのではないかと思う。
 この3作目で彼が完全に一皮剥け切ったのかというと、そうではないと思う。前述のように、あまりにも本格的なロックサウンドで塗り込められたこのアルバムは、彼本来の資質、というか、ファンが彼に求めている音楽と正面から向き合ったものではないと思うからだ。これは、彼がロックミュージシャンとして20年間やってきて、一度は作っておきたかった、ロックファンとしての憧れを具現化したアルバムであったのではないかと思う。ロックの本場で、向こうのミュージシャンと一緒に、自分の才能をぶつけて、本格的なロックアルバムを作ってみたいという自身の欲求を満たすためのアルバム。id:ALL5さんが奥田民生の『FAIL BOX』との共通点を挙げておられた(http://d.hatena.ne.jp/ALL5/20061114)が、まさにそういうことなんだろうと思う。別の例を挙げるなら佐野元春にとっての『ナポレオンフィッシュが泳ぐ日』のようなアルバム、と言えるかもしれない。
 彼は今年の夏フェスに出演した際、「バラ色の日々」と「LOVE LOVE SHOW」というイエモンナンバーを披露した。その事実とこのアルバムでいわば禊が終わったと言えるだろう。ここから、かつてのようなどこか胡散くさくて最高にグラマラスで煌びやかなロックスターとしての吉井和哉が戻ってくるような気がする。そしてそこには、40代になったが故の深みのようなものも出てきているんじゃないか、と期待するのだ。