無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ボノはずっと「トーキョー」と言っていた。

U2 VERTIGO//2006 TOUR
■2006/11/30@さいたまスーパーアリーナ
 会社からさいたま新都心駅までは1時間強。仕事終わって速攻電車に乗ったけども、会場に着いたのは開演時間ギリギリ。遠いよ!さいたまスーパーアリーナは何度か来ているけれども、アリーナで見るのはこれが初めて。アリーナ後方、ステージに向かって左側のBLブロック。人混みをかきわければそこそこいい場所まで行けた。
 規定時間を15分ほどオーバーしていよいよ客電が落ちる。マジで、耳を劈くような大歓声。客層は圧倒的に外人率が高いので、盛り上がりもハンパない。ステージの左右にせり出した花道にボノが現れる。日の丸の旗を振っての登場。普通のアーティストがやると微妙な演出だが、ボノがやると様になってしまうから不思議だ。「シティ・オブ・ブラインディング・ライツ」からスタート。するのだが、マジでPAの音がほとんど聞こえないくらいの圧倒的な客の声。周りで歌ってるやつらの声で、ボノのボーカルが聞こえない。これにはまいった。外人、うるせぇよ!こっちはお前らの歌聞きに高い金払ってるんじゃないんだよ!と思いつつも、僕も歌っていたのだが。「ヴァーティゴ」冒頭のカウントは当然「1,2,3,4!」。生で聞くとこれはマジでカッコイイ。実際、ステージにはサポートのメンバーがいるわけでもなく、4人しかいないのである。生演奏ではない部分もあるのかもしれないが、にしてもこのクラスのアリーナでバンドのメンバーのみで裸一貫の勝負を仕掛けられるバンドが他にどれだけいるだろう。ストーンズだってエアロスミスだって、いるよね、メンバーの他に。一番感動したのはそんなところだったりもする。
 左右のスクリーンの他に、ステージバックにも様々な映像や文字が浮かび、演出を行っていた。最新アルバムのタイトルからだろうが、「原子爆弾の」とデカデカと表示されたりしていた。最新アルバムからの曲をことさらフィーチャーするというわけでもなく、膨大なレパートリーから満遍なくセレクトしたようなセットリストだった。「ニュー・イヤーズ・デイ」のイントロが聞こえたときはマジで震えた。このときも、エッジがピアノを弾き、ギターと2足のわらじで演奏していた。ブリッジ部分での極北のギターソロ、たまりません。ボノは「ビューティフル・デイ」のラストではビートルズの「ブラックバード」を口ずさむなど、リラックスした様子も感じられた。客席からマフラーを受け取ったりしていたし、積極的にコミュニケーションを図っていたと思う。「ザ・ファースト・タイム」ではボノとエッジのアコースティック・ギターのみの演奏。これも大きな聞き所だった。
 最新アルバムはよく言われているように、ボノの父親との関係がひとつのテーマになっている。それを象徴する「サムタイムス・ユー・キャント・メイク・イット・オン・ユア・オウン」の前のボノのMCが、良かった。「僕の父親は、タフな男だった。もし、彼が今ここにいたら、僕にこう言うだろう。『そのクソったれなサングラスを外せ』とね。」そして彼は、客席にそのサングラスを投げ、歌いだした。この曲の途中、僕も自分の親のことを考えていた。そして、ボロボロと涙を流していたのだ。U2というバンドは、世界で最も巨大なバンドのひとつであるのだけれども、彼らの音楽に一貫しているテーマのひとつは、「少年が大人になること」だと思う。『HOW TO DISMANTLE〜』というアルバムが感動的だったのは、そのテーマに対して、ボノがひとつの区切りをつけることができたからだ。この曲は間違いなく、前半のクライマックスだった。
 「ワン・ツリー・ヒル」を挟み、怒涛の後半へ。この後半は、社会派バンドとしてのU2を象徴する内容だった。ラリーの叩くタイトなイントロから、沸騰したようにアリーナが燃える「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」。彼らの故郷であるアイルランドの内紛をテーマにした曲であると同時に、80年代の彼らにとって重要なヒット曲でもあるが、「いつまで、僕たちはこの曲を歌わなくてはならないんだ?」というコーラスは、曲の持つ元々の意味を離れ、現在の世界においてもあまりにも生々しく響いている。ボノは「COEXIST」と絵文字を使って書かれた鉢巻を巻いて熱唱。ステージバックにも大きく「共存」という漢字が映し出される。ボノは曲の後半でアリーナから一人の少女(小学生くらい)をステージに上げて一緒に歌っていた。ボノから名前を聞かれて、きちんと英語で答えていた。「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」では、花道上で何かを燃やすパフォーマンス。続く「ミス・サラエボ」の後、スクリーンには「世界人権宣言」がテロップで流れ、英語でそれを読み上げるという演出。「ストリーツ・ハブ・ノー・ネーム」では、アフリカ各国の国旗が映し出されていた。これでもかという、テンションの高い演出。普通のバンドがここまで政治性を真正面に掲げたステージを行うと、往々にして客は引いてしまいがちだが、とにかく、このままではいけないんだ、何かをやらなければいけないんだ、という彼らの思いが伝わってくる圧巻のステージだった。この暑苦しさもまた、U2なのだと思う。「ワン」の前に、照明を落とし、携帯電話のライトをつけるようにボノが言う。「昨日は『クリスマスツリーのようだ』と言ったんだけれど、きょうは天の川みたいだね」とボノ。本当に、プラネタリウムにいるような光景だった。そんなロマンティックな空気の中、本編は終了。
 アンコール。スクリーン上にスロットマシーンが現れ、小泉元首相やブッシュの写真がコラージュ的に映し出される。「ザ・フライ」、「ミステリアス・ウェイズ」と、メタリックな音像で『アクトン・ベイビー』からの曲が続く。ブッシュ政権へのボノの怒りが伝わるようなパートだった。2度目のアンコールは、新曲「ウィンドウ・イン・ザ・スカイ」から。ラストは「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」。ボノ、アダム、エッジと、一人づつステージから降りていく。ドラムの音だけが残り、それもだんだん小さくなり、最後にラリーが姿を消した。8年ぶりの来日公演。確かにもっと聞きたい曲もあった。が、彼らはヒットパレードを演奏するためにワールドツアーを回っているのではない。この日演奏された曲は、20年以上前の曲であっても、懐かしいヒット曲をやるというスタンスは全くなく、今の世界をど真ん中で打ち抜く、重い意味を持つ曲として演奏された。U2というバンドは、彼らの曲がそうであるように、いつでも当事者なのである。傍観者ではいられないのである。この世界に今現在生きているというヒリヒリした緊張感と、現役のミュージシャンとしてのバイタリティを常に共存させてきたバンドだと思う。そして、ロックが政治性を持つと言うことのナイーヴィティと、少年が大人に成長するというドラマを奇跡的なバランスで同時に内包しているバンドである。と、改めて感じた。

■Set List
1.City Of Blinding Lights
2.Vertigo
3.Elevation
4.Until The End Of The World
5.New Year's Day
6.Beautiful Day
7.Angel Of Harlem
8.The First Time
9.Sometimes You Can't Make It On Your Own
10.One Tree Hill
11.Sunday Bloody Sunday
12.Bullet The Blue Sky
13.Miss Sarajevo
14.Pride (In The Name Of Love)
15.Where The Streets Have No Name
16.One

17.The Fly
18.Mysterious Ways
19.With Or Without You
20.Window In The Skies
21.Desire
22.All I Want Is You