無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

20歳より30歳になった時の方がいろいろ考える。

ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 酔杯 2006-2007 「The start of a new season」
■2006/12/09@横浜アリーナ

 今回のアジカンのアリーナツアーは、各地で対バン形式で複数のフロントアクトが出演するという、プチフェスティバルとも言える形式で行われている。この日の横アリのゲストはスペシャル・アザーズと、なんと、あのファウンテンズ・オブ・ウェイン。
 まず最初に登場したスペシャル・アザーズ。全く聞いたことがないバンド。ジャズっぽいテイストのインストなのだが、ギターとオルガンがに歌心があるというか、メロディーがいいしビート感もかなり現代的なのでレイドバックした感じはない。地元横浜出身てことでかなり気合入っていたようだ。
 続いて、ファウンテインズ・オブ・ウェイン(FOW)。特に今リリースがあるわけでもないのに、このアジカンのオファーに応えての来日なのだろう。まさかここでFOWを見れるとは!個人的には初対面。なんて美味しいんだ。サンキューアジカン。「レッド・ドラゴン・タトゥー」、「ステイシーズ・マム」などの代表曲はもちろん、デビュー作からも4曲やってくれた。10年間でオリジナルアルバム3枚と未発表曲のコンピレーション1枚しかリリースしていないが、間違いなくアメリカン・ギターポップ/ロックの良心と言えるバンドである。この日演奏した9曲も、まさに3分間ポップロックの見本と言えるような良質のメロディー。「デニース」で歌詞が飛んだのはご愛嬌か。時間にして35分くらいのステージだったのだけど、大満足。この日配られたフライヤーを見ると、来年春には4年ぶりの新作がリリースされるらしい。楽しみだ。多くのアジカンファンにはあまりなじみのないバンドなのかもしれないが、この名曲群に対して反応が今ひとつだったのは残念。何でだよ。しかしこのように、自分たちのファンベースとは必ずしも一致しなくても、好きなバンドをゲストに呼んで、自分たちのファンにもそのいい音楽を伝えようとするアジカンの姿勢はNano-Mugen Fesのコンセプトとも一致している。

Fountains of Wayne Set List
1.I've Got A Flair
2.Red Dragon Tattoo
3.No Better Place
4.Maureen
5.Barbara H.
6.Denice
7.Stacy's Mom
8.Radiation Vibe
9.Sink To The Bottom

 会場は、可動式アリーナをフル活用し、スタンディングブロックを大きく取った構造になっていた。実際、イス席の割合は少なかったと思う。細かくブロック分けされてはいたが、各々のブロックの人口密度はそれほどでもなく、ゆったりと見ることができた。(アジカンになったら一気に人口密度が高くなるのかと思ったらそうでもなかった。)
 メンバー入場時のSEはストーン・ローゼズの「ドライヴィング・サウス」。今回のツアーはアジカン結成10周年というのがひとつのキーワードになっている。ツアーのタイトルからも伺えるが、ここからまたバンドにとって新しいタームが始まるのだという意味があるのだろう。セットリストからもそれは伺えて、これまでの作品からほぼ満遍なくセレクトされ、ほぼ全てのシングル曲、代表曲を網羅するような内容だった。今のアジカンは演奏的にも非常に安定しているので、こういう内容でやればそれこそ横綱相撲である。盛り上がらない訳が無い。1曲目が「センスレス」というところに、ちょっとこだわりを感じたりもしたが、基本的にはファンが聞きたい曲をやる、というセットだったと思う。
 で、これだけ大きな会場になると、曲間の歓声も非常に大きなものになる。しかも、その大半は女性なのだ。黄色い声で「ゴッチー」「カッコイイー」などの声が響き渡るわけだ。数年前、ちょうど『KING OF THE JUNGLE』を出し、セールス的にも全盛だった頃のトライセラトップスの武道館に行ったことがあるのだけど、同じような感想を持ったのを思い出した。そこで思う感想というのはつまりやはり前回のツアーの感想で書いたことと同じなのである。ステージ上で鳴っている音楽と、それを受け止めるファンのノリの違和感。Zeppクラスでもそう思うのに、これだけ大きな会場だと、その乖離はますます激しくなる。実際、スペシャル・アザーズやFOWには全く興味を示さず、場所取りのためにだけそこに立っているようなアジカン・ファンがどれだけたくさんいたことか。その中で、敢えてこういうやり方で自分たちのルーツを開陳し、好きなバントと競演していく彼らのやり方は、無謀であるようにも見えるし、逆に言えば今のアジカンクラスでないとここまでできないし、というものであるのかもしれない。難しいところだ。
 アジカンというバンドは、いわば媒介のようなものである。自分たちを通じて、もっと音楽の幅を広げてほしい、というメッセージをいろんな形でファンに発信しているバンドだ。「オレたちが最高だ!」というのとは真逆の謙虚なアプローチ。ここまではっきりとそういう姿勢を打ち出すバンドも、珍しいと思う。
 アンコールの1曲目「粉雪」。これは、後藤が初めて全編日本語で書いた曲だ。それまで英語で歌っていた彼らが、この曲以降日本語で曲を書くようになり、その場で観客の反応が返ってくるのが嬉しかったと話していた。10周年を迎えたこのツアーで、どうしてもこの曲がやりたかったと言っていた。特に横浜は彼らの地元と言うこともあり、感慨深いものがあったようだ。そしてこの日は、本人もMCで言っていたが、後藤が30歳になって初めてのライヴだった(後藤の生年月日は1976年12月2日)。後藤は「昔は30ったらすげえ大人だと思ってたけど、いざ自分がなってみると、全然、こんなもんか、って思う」みたいなことを言っていた。バンドとしても、個人としても区切りを迎えた彼らがどのようにして新しい季節を始めるのか。少なくとも彼らに迷いはないと思う。どんなファンでも、とにかく巻き込んで行くしかないのである。そのためにやるべきことをやるだけなのである。そんな決意だけは、確かに伝わった。

AKG Set List
1.センスレス
2.フラッシュバック
3.未来の破片
4.サイレン
5.無限グライダー
6.ブルートレイン
7.ブラックアウト
8.Re:Re:
9.N.G.S
10.ロケットNo.4
11.振動覚
12.リライト
13.エントランス
14.羅針盤
15.ループ&ループ
16.アンダースタンド
17.君という花
18.海岸通り
<アンコール>
19.粉雪
20.君の街まで
21.遥か彼方
22.或る街の群青
23.月光