無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

「Mikaela Band」は伊達じゃない。

 今作にボーナストラックとして収録されている「タイムマシンにおねがい(2006 version)」。これを聞くと、「木村カエラが今までのボーカルで一番上手い」という加藤和彦はじめ、メンバーの言葉がお世辞ではないことがわかる。声に芯があるし、日本語の発音がクリアだし、聞きやすい。初代のミカは派手な声だったけれども決して上手いボーカリストではなかったし、前回の桐島かれんはどちらかというと「歌も歌えるモデル」という風情だった。ロックバンドのボーカル、という意味では歴代のミカ・バンド女性ボーカルの中で木村カエラが最強だろう。しかし、このアルバムで彼女のボーカルが全面にフィーチャーされているかというとそうではなく、彼女がメインボーカルを務めた曲は「タイムマシンにおねがい」を含め、4曲だけである。あとは、せいぜいコーラス程度で、彼女がクレジットされていない曲もある。しかし、実際、オリジナル・ミカ・バンドでもアルバム中ミカがメインの曲は同じような割合だったし、桐島かれん時代のアルバム『天晴』では彼女のメインボーカルは3曲だけだったりする。ので、ミカ・バンドのスタイルとして、そういうものだということなのだろう。
 加藤和彦はオーソドックスなロック/ポップ。幸宏はエレクトロッぽいポップス、小原礼はブルージーな渋いロックンロール、高中正義エキゾチック風味なインストと、メンバーが各々違うスタイルの曲を書いているので、アルバムはバラエティに富んでいる。堀江博久をサポートに迎え、演奏もアレンジも職人的に完成度が高い。後半がちょっと渋すぎて平坦な感じはするものの、大人のポップアルバムとしてはいい仕上がりになってると思う。
 実際、ミカ・バンド復活と言っても、音楽的にシーンをリードするような新しい試みがなされるとか、そういう意味でのセンセーショナルなものはない。木村カエラという優秀なボーカルに出会ったことで、同窓会的にもう一回やってみようかという流れになったという感じなのだろう。個人的には、いい大人がワイワイ遊んでいるような雰囲気は好きなので、これはこれでOK。そして、高中正義のロックギターリフが非常にキレていてカッコいいのも嬉しい。ソロだとあまりこういう音は出さないからね。プラス、このアルバムの収穫は「タイムマシンにおねがい」の松山猛が作詞した1曲目の「Big-Bang, Bang!(愛的相対性理論)」。これは、木村カエラの魅力が全開だし、歌詞もサウンドもメロディーも非常にカッコいい。2006年ミカ・バンドのテーマ曲と言っていいだろう。これと「タイムマシンにおねがい」が最初と最後にあることで、木村カエラの存在感がグッと浮き彫りになる。ここまでくれば、ツアーとかやってくれると最高なんだけどな。