無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

男の純情。

トーキョー・ロンリー・サムライマン

トーキョー・ロンリー・サムライマン

 増子直純氏の書く詞のテーマのひとつは、「東京に出てきた地方出身者の孤独と哀しみ」である。そこに、「いい年してまともな職にもつかないロクデナシ(親不孝者)」、というもうひとつの大きなテーマが重なり、独特の哀愁漂う人情絵巻の如き世界が綴られる。単純に図式化するとそういうものではないかと思う。そして、それは取りも直さず増子氏の人生そのものであり、「こんなオレでももがいてもがいて生きているんだ」という必死の叫びが、聞くものの心を揺さぶり、その背中を押すのである。歌詞に描かれるキャラクターやストーリーがフィクションであろうとなかろうと、その構造は変わらない。同じようなテーマはイースタンユースの楽曲にも見られるが、両者の最も大きな違いはそれを笑い飛ばすユーモアがあるかどうか、だと思う。(イースタンユースにもユーモアセンスはあるが、怒髪天のそれと比較するとレベルも意味もかなり違う)
 今作は前作に比べても楽曲中の「ダメなオレ度」が上がっている。サラリーマンの哀切を描き出した曲もあるが、増子氏が「もし、自分がまともに働いていたらこうなっていたんじゃないか」という仮定に基づいて書いた詞なのかもしれない。そんな中、ラストの「ありがとな」は、素でバンドのメンバーに対する感情を表したような、青臭く気恥ずかしい言葉が並んでいる。こういう歌詞をストレートに書ける40歳って素敵だと思う。
 ただ、本作ではメロディーのインパクトと完成度がいまひとつという気がしなくもない。(本作に限らず、個人的には『武蔵野犬式』『TYPE-D』あたりを境にそうした傾向が出ているように感じる。)怒髪天は上原子氏ひとりで全作曲を担当しているので、マンネリ感が出るのは致し方ないかもしれないが、バンド全体の課題として克服してもらいたい。