無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

愛のある風景。

ラブシティ

ラブシティ

 『ラブレター』は、シンプルでざっくりとしたロックンロールを基調としたアルバムだったが、本作はソウルフルなポップテイスト溢れるアルバムになっている。ソロになってから、彼のアルバムに参加するミュージシャンはそれなりに固定されたメンバーだが、サウンド的には前述のロックモードかポップスモードのいずれか、という感じになっているようだ。本作にはバンドアレンジの曲だけではなく、ほとんど彼一人で宅録のような形で作られた曲も収録されており、よりリラックスした印象になっている。が、それはユルくヌルく力の抜けたものになっているというわけではなく、ちゃんと時代性や現実の世界に対するリアルを伴ったものになっているのがいい。
 基本的に曲のテーマは「愛」であり、アレンジや彼の歌唱も幸福感を孕んでいる。のだけど、都市に生きる人間の孤独や切なさといった感覚もなくなってはいない。リアルというのはそういうことだ。今まで積み重ねてきた人生の中で、失ってきたもの、忘れてしまったもの、手に入れたもの、今目の前にいる人。そういう諸々の重さ、光と影がきちんと詰まっているのだ。同年代の人間として、共感できる部分がたくさんある。彼がタイトルにつけた「CITY」というのは、彼の拠点である下北沢とかなのかもしれないけれど、聞く人それぞれにとってその町の風景は異なるだろう。それでも、このアルバムに流れる温かい感触は変わらないと思う。
 自身のレーベルを立ち上げてからは、リリースも身軽になっていってるようだけど、その分、一般的に彼の活動が広まりにくくなっている気がしなくもない。そのせいか、ここ最近の彼は非常にいいアルバムを作っているのにイマイチ過小評価されているような気がする。とてももったいない。売れればいいというわけではないけれど、こういう作品は広く人の耳に届いて欲しい。