無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

熟練の妙技。

ダブルドライブ

ダブルドライブ

 10年ぶりに復活した井上陽水奥田民生のセカンドアルバム。前作と同様、バックを勤めるミュージシャンは基本的に民生サイドの方々で固められている。というわけで、サウンドは基本的に骨太なロック色の強いものになっているのだけど、そこは民生であり陽水であり、肩肘張らずにリラックスして聞けるものになっている。シリアスな曲もあるが、中には冗談としか思えない(中身のない)歌詞を陽水氏が迫真の歌唱で歌いきる曲もあり、ベテランが本気で遊んだ時の底力というものをまざまざと見せつけられる。
 音楽の世界においては、1+1=2とはならない。ロックの歴史を紐解いてみれば、その例は枚挙に暇がない。時に、それ以上の結果が生まれるマジックが生じることもあるが、それは本当に稀な奇跡なのであって、最初からそれを狙って音楽を作ることがどれほど無駄なことかということをこの両名は良く知っているのだと思う。このアルバムが素晴らしいのは、ビッグネームが並んでいるのだからそれに見合う内容にしなければいけない、という考えから正反対のところにあることだ。民生も陽水も1+1=2にしようと思っているのではなく、1+1で「井上陽水奥田民生」としての「1」をきちっと作り上げている。その、力の入れ方、抜き方のバランスが絶妙なのだ。お互いに自分のソロ作となれば同じようにリラックスした環境での製作は難しいのかもしれないが、目先を変えるための息抜きユニットとしての意味合いもゼロではないのかもしれない。
 ぶっちゃけ、陽水と民生が二人揃ってこのレベルの作品を出してきたら「これはつまらん」とは言えないわけで(実際、いいアルバムだと思うし)、そういう意味では正直言ってずるい。本作についてネガティブなことを書くとしたら、そのくらいしか思いつかない。