無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

絶望を抱えた希望。

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 『OZ』から2年半ぶりの100sとしてのセカンドアルバム。前作は、中村一義の現代に対する世界観と共に、100sというバンドに何が鳴らせるのか、ということを地道に説得するための非常に濃密なアルバムだった。一つ一つの音に対し、なぜこうでなければならないのかということをメンバー一人一人が悩み抜いて答えを出したような、そんな空気が漂っていた。今作は、100sというバンドが更に完成度を高め、上記のような手続きなしでそれぞれの考えている音を具現化することがよりスムーズになったという印象を受ける。
 楽曲としてもシンプルに、バンドアンサンブルを強調できる曲が多い。特に前半は100sパワーポップと言えるような曲が多く並んでいる。簡単に言えば抜けが良い。音楽的な意味での捻くれた感覚や、深みを期待するとやや肩透かしかもしれない。くらいの音が鳴っている。しかしこれは、中村一義のソングライティングが変わったというよりも、100sというバンドの表現がこうした曲を求めていると言った方が正しいと思う。『OZ』からバンドが辿った成長が、ソングライターとしての中村一義にも反映されているのだろう。なんというか、とても自由に言葉やメロディーを選んでいるように思える。これまでの中村一義の曲だってとてつもなく自由だったのだが、重い荷物を下ろして身軽になったような感じだ。
 前作は、21世紀という時代を過去から大きく俯瞰し、未来に対しての一つの視点を提示するような壮大な内容だった。このアルバムにおいては、そこまで全体を貫く大きなテーマは感じられないが、確実に、前作を通った後の表現であると思う。現在の世界の未来というものに対して、中村一義は圧倒的に希望を歌っている。光を歌っている。無批判にではなく、今のこの世界が絶望に満ちた荒野であり、人間はどこまでも孤独であり、死は逃れられないことを認識した上でである。自分も含めて人間がみな聖人君子ではないことを理解した上で、である。「あの荒野に花束を」からの後半は、前作に負けず劣らずのドラマチックな展開を見せる。『OZ』が世界そのものを過去から俯瞰したアルバムだとしたら、今作は中村一義を含めて、人々が持つそれぞれの歴史を俯瞰しているように思う。彼の人生に大きな影響を与えた祖父の死も無関係ではないのだろうが、死というものを意識しつつ、未来へ光をつなぐような、そしてそこにいる人を一人一人つなげていくような、そんなアルバムであるように思える。
 個も公も全てひっくるめての「希望」をここまでストレートに鳴らせるアーティストは他にはいない、と改めて思う。