無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

クモの巣青春白書。

 サム・ライミ監督自身も語っているように、このシリーズはアメコミのヒーローモノとは言いつつも、通して流れるテーマは主人公・パーカーの成長物語であり、パーカー、ハリー、MJ3人の青春物語なのである。そういう意味では、この作品もそのテーマに沿って、パーカーとMJの恋愛に影が差したり、叔父を殺した真犯人の出現に心乱されるピーターの姿が描かれたり、ハリーとパーカーの複雑な運命に一つの決着がついたり、と、盛りだくさんな内容になっている。このシリーズでは、スパイダーマン=ピーター・パーカーという人間を、完全無欠のヒーローではなく、弱い人間として描くことに執心している。この作品でも、NY市民のヒーローとして持ち上げられ慢心するパーカーの姿がこれでもかと描かれる。その慢心により、MJとの関係がギクシャクするあたりも、見ていて感情移入すらできない自業自得感が満載で、この辺のバランス感覚はさすがライミ監督といった感じ。
 しかしこれはどうも、3部作ではなかったみたいだ。次がありそうな気がする。この3作目で終わりにするのであれば、ハリー扮するニュー・ゴブリンとの対決がクライマックスになるべきだと思うのだが、そうなっていない。前半のニュー・ゴブリン戦で記憶を一時的に失ったハリーの台詞「(看護師がパーカーを指して「いい友達ね」という言葉に対し)命をかけてもいい」が、後半で生きてくる展開は本作を貫く大きな伏線としてアリだと思うが、全体としては各エピソードの掘り下げ方が過去2作に比べて浅いと思う。上記の青春ドラマでかなりいっぱいいっぱいな内容(しかも、そこにパーカーのクラスメートであるグウェンという新キャラまで登場する)なのに、敵がこれだけ現れては十分にそれぞれの敵の背景を描く時間がなくなってしまう。ライミ監督の思い入れからなのか、サンドマンはかなり気合を入れて描かれているが、ヴェノムは正直、原作で人気の悪役なので周囲の圧力で仕方なく入れたんじゃないかと邪推したくなるくらい、戦闘シーンでも印象が薄い。こういう映画は、やはりどれだけ各キャラクターの背景にリアリティのあるドラマを描けるかが重要だと思うので、その点では若干物足りない。次があるのはいいけれど、果たしてどういう形でシリーズに決着をつけるつもりなんだろう。正直、前作を見た後のワクワク感はほとんど感じなかった。お金をかけただけあってSFXシーンはお腹いっぱいだけど、ライミ監督がどこまでこのシリーズへの情熱を持って撮り続けることができるのか。そこだけが心配。
 あと、トビー・マグワイアが、若干太った?感じがして、気になりました。実際どうなのかは分かりませんが。