無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

お面の裏側。

 ビークルのメジャー2作目。トロピカルゴリラYOUR SONG IS GOODASPARAGUSといった盟友たちとのスプリットシングル曲を含む全19曲というボリューム。とにかくどこまでもポップ。ポップでなければ意味がない、とまで言い切りたくなるほどポップ。しかし、ビークルの本質というのはそのきらびやかなポップの裏にこそ潜んでいると思う。
 ヒダカトオルという人は同世代なので、お面をかぶるとか、インタビューでなかなか自分の本心を明かさないとか、そういうメンタリティというのは非常によく理解できる。80年代に青春を過ごした人間というのは多かれ少なかれそういう一面があるものなのだ。真っ直ぐストレートに自分の思いをぶつけるということに抵抗を感じてしまうのである。それは女の子に対してとかそういうことだけではなく、自分にとって一番大事な音楽に対しても、だったりするのだ。彼らが古今東西様々な音楽に対する造詣が深いのは自他共に認めるところだが、それをインテリぶって知識をひけらかすことなく、わかる人にはわかる的な隠し味として絶妙にブレンドするあたり、ニヤリとさせられる。この辺の手腕はますます巧妙になっている。
 どこまでもポップ、でありながら、どこかに切なさが見え隠れするのもビークルの大きな魅力である。どの曲でも基本的に歌われているのは自分が手にしていないもの、手が届かないもの、失ってしまったものに対する思いである。それを悲しむでもなく、ポップという照れ隠しの鎧をまといひたすら強がって見せる姿は、世の中のさえない男の子(30代既婚のサラリーマン含む)の勇気となることだろう。いいアルバムだと思う。