無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2007 in EZO(4)〜幸せであるように。

■2007/08/18@石狩湾新港
 ちょうどこのライジングサンをやっていた週末は、「WE LOVE HOKKAIDO シリーズ」と題して、わが日本ハムファイターズが札幌ドームで千葉ロッテマリーンズと試合を行っていた。アジカンが始まる前に試合経過をチェックすると、ファイターズがリードした状態で試合は終盤に入っていた。ああこりゃ今日は勝ったなと安心してアジカンを見た後、結果をチェックすると逆転負けしていた。嫁と二人で「なんだよオイ!」状態。アジカンの印象があまりよくなかったのはそんなのも要因かも知れません(たぶんちがう)。しかし、テントに戻る途中マリーンズユニを着たファンらしき人たちが「今日勝ちましたねー!イェーイ!」と盛り上がっているのを見て軽く殴りたくなった。でもフェスを成功させるために抑えました。そしてテントに戻る途中、明らかに今までのライジングサンでは見たことのない服装の方々に遭遇。上下白スーツでリーゼントをビシッと決め、肩からは大きな「E.YAZAWA」タオルをかけた集団。本当に、同じ服装の人が集団で練り歩いていたのだ。記念撮影をせがむ人もいて、ちょっとした盛り上がりだった。恐るべき矢沢ファン。
 
 ひと休みした後、アーステントでエレカシ。『町を見下ろす丘』以降、リリースのない彼らだが、ライブは精力的に行っているし、そこで聞かれる新曲も総じていいという話は聞いていた。そんなわけで久々の生エレカシであることももちろん楽しみだったのだが、それ以上に、エレカシ、ライジングサン初登場である。9度目のライジングサンにして初めてなのである。とっくにもう出ていると思っていた人もいるかもしれないが、初めてなのである。ウェスふざけるなよと、僕は毎年のようにアーティストリクエストに書き込んでいたのである。その思いが通じての初登場である。興奮しないわけがない。最近のツアーでは若いロックファンも多く見受けられるエレカシだが、ほぼ満杯になったアーステントでも大歓声で迎えられた。正直、ここまで盛り上がったエレカシのライヴを見た記憶はあまりないくらいだった。この日はサポートとしてキーボードに蔦谷好位置氏が参加。彼は札幌出身なのでメインではないとはいえ凱旋ともいえるだろう。いきなりの「ガストロンジャー」でスタート。そして、「今宵の月のように」という、ベタ過ぎやしないかと心配になるくらいの構成。「悲しみの果て」も「風に吹かれて」もやったし、大サービスに近いと言えるだろう。しかし、そんな過去の代表曲よりも、やはり噂の新曲群が素晴らしかった。どの曲も基本的には非常にポジティブで、前向きなモード全開の内容なのだが、その根底には40を過ぎた宮本浩次の人生観が透けて見えているのである。残り半分切った自分の人生で、希望を失うことは容易いが、それを受け入れた上で明日があると歌うことが、どれだけ勇気のあることか。そしてその希望が薄っぺらではなく説得力に満ちていることか。この、オヤジの希望ソングを前に僕は感動を禁じえなかった。『扉』『風』『町を見下ろす丘』というアルバムに続く新作も近いうちに聞けるとは思うが、すごいことになっていると思う。そんなセットの中で「道」という、前述のポジティブモードとは正反対にあるような曲をやってしまうエレカシが僕は好きだ。でも、実はこの曲にも「死に様だろうが 男はよ」という、最近の曲に通じるフレーズが出てきてドキッとしてしまう。「道」が収められている『奴隷天国』というどす黒いアルバムの後に、エレカシは『東京の空』を作ったのだ。その、『東京の空』前夜に近い雰囲気をなんとなくではあるが、僕は今のエレカシに感じるのだ。

■SET LIST(エレファントカシマシ
1.ガストロンジャー
2.今宵の月のように
3.さよならパーティー(新曲)
4.悲しみの果て
5.風に吹かれて
6.笑顔の未来(新曲)
7.男餓鬼道空っ風
8.道
9.俺たちの明日(新曲)

 急いでサンステージに戻ると、ついにその瞬間が訪れようとしていた。予定よりも登場が遅れたようで、ほぼ最初から見ることができた。スクリーンにドドンと「E.YAZAWA」ロゴが映し出され、満を持して矢沢永吉登場。ほ、本物だよ!嫁と二人で「普通にカッコいい」「オーラすげぇ」など、鼻タレ小学生レベルの感想しか出てこないこのすごさ。前日の井上陽水とはまた違う、大人のロックの渋さ。ダンスも、マイクさばきも、すべてが決まっている。これはやっぱファンにはたまらないんだろう。僕が知っている曲は「アリよさらば」とか「SOMEBODY'S NIGHT」、「黒く塗りつぶせ」とかくらいだったが、どれもバンドの演奏から完璧で聞き応え見応え十分。途中、しっとりと「星に願いを」を歌ったのだが、永ちゃん、歌上手いじゃん!と非常に失礼なことも思ってしまった。MCも最高だった。「オレね、ロックフェスティバルってものには出たことがなかったんだけど、去年初めて出たのね。何で出たかって言うとさ、ある音楽評論家(渋谷陽一のことか?)がオレに言うわけよ。「永ちゃんさあ、・・・」あ、あのね、オレさ、永ちゃんて呼ばれてんのよ。知ってた?で、「永ちゃんさあ、若いロックファンは永ちゃんの歌なんて聞いたことないよ?ほんとにあの人歌ってるの?とか思われてるよ。ダメだよそれじゃあ。」って。で、出ることにしたのよ」みたいなことを言っていた(すごく要約)。確かに、名前だけしか知らない人間も、このパフォーマンスを生で見せられたらすごいと言うしかないだろう。アンコールでは当然、「止まらないHa-Ha」と「トラベリン・バス」で恒例のタオル投げ。YAZAWAタオルじゃないけど、僕も嫁もやりました。いい思い出になりましたよ。何千人が一斉にタオルを頭上に投げる絵は、ちょっと壮観だったなあ。永ちゃんの終演とともに、花火が打ち上げられる。すでに十分濃いステージを見まくっているのだが、今年も石狩の夜は長い。

 再びアーステントに戻って、再結成のフライングキッズ。すでに解散して10年近くたつが、MCU浜崎貴司と「幸せであるように」をカバーするなど、再評価の向きは高かった、のだろうか。どのくらいの人たちが彼らのこの再結成を待っていたのかはよくわからなかったが、アーステントは開演前にはほぼパンパン。ものすごい熱気が充満していた。浜崎貴司以外は、表立った音楽活動がない、というか、僕が寡聞にして知らなかったので、10年前の姿しか記憶にない。のだけど、驚くほど変わっていなかった。キーボードの飯野氏が結構老けたなあ、と思うくらいで、一番年長であるはずのギターの丸山氏はもともと老け顔だったせいかあまり変わったように見えない(笑)。いきなりの「我想うゆえに我あり」で一気にヒートアップ。初期のファンク全開時期の曲が好きな僕としてはたまらない展開。しかし、今聞いても全然カッコいい。個人的にはたまに『続いてゆくのかな』とかは引っ張り出して聞いたりするので、そんなに久しぶりな感じはしなかったのだけど、こういう横ノリなファンクな音をやるバンドってなかなかいないよなあ、と思った。伏島氏のベース、今でもチョッパーバリバリだし。そしてとにかく、1曲1曲に対するオーディエンスの反応が尋常じゃなかった。彼らとともに青春時代を過ごしたファンが大半だったように見えたけど、実際、今でも彼らの曲は青春ど真ん中を射抜く力を持っているんじゃないだろうか。「DISCOVERY」なんか聞くと、今でもカップヌードルのCMの映像が頭に浮かんでキュンとしてしまう。結婚引退した浜谷淳子のコーラスパートは加藤英彦が担当していたのだけど、あまり違和感はなかった。「幸せであるように」はもちろんのこと、いい曲を本当にたくさん作ったバンドだったと改めて思う。正直、後半は、涙でグショグショになっていた。懐かしいとかそういうことではなく、こんなに素晴らしい曲が目の前で演奏されることに単純に感動していたのだ。メンバー個々のプレイについては、錆付いているどころかますます凄みを増していたように思う。思うに、彼らがいなくなった後、ファンク基調のポップソングをメジャーシーンど真ん中でやるアーティストというのはほとんどいなかったと思う。この10年について言えば、それはスガシカオの独壇場だったわけだ。ほかに比する存在がいなかったのだ。そして、スガシカオの曲というのは、非常にねじくれたラブソングが多い。フライングキッズのように、青春ストレートな胸キュンポップファンクをやる存在というのは、いなかったのである。こういう時代であるからこそ、彼らが再結成する意義はあるんじゃないだろうか。岡村ちゃんも再始動するし、青春ファンクの復権を心から願う。フライングキッズについてはこのライジングサン以降、特に予定はないようだけど、これで終わってしまうのはあまりにももったいない。この日あの場にいた人全員がそういう感想を持ったんじゃないだろうか。個人的には、本当に見れてよかった。実は、フライングキッズのライヴを見るのは初めてだったのだ。文句なく、今年のベストアクトのひとつだったと断言する。どうもありがとう。

■SET LIST(FLYING KIDS
1.我想うゆえに我あり
2.炎(ファイヤー)
3.毎日の日々
4.セクシーフレンドシックスティーナイン
5.DISCOVERY
6.心は言葉につつまれて
7.風の吹き抜ける場所へ
8.幸せであるように
9.君にシャラララ