無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2007 in EZO(5)〜孤高の青。

■2007/08/18@石狩湾新港

 サンステージに戻り、コーネリアスに行ってた嫁と合流。スカパラ、は本来なら踊ってガンガンに楽しみたいところなのだが、今年の夜のラインナップからするとここで体力を使いたくなかったので後ろのほうでまったりと観戦。とは言え、なんだかんだで体は動き出してしまう。基本的には春のツアーで見たセットのショートバージョンという感じだったが、もはやホームグラウンドと言ってもいい石狩の空気を熟知した充実のステージはさすがの一言。途中、KEMURI伊藤ふみお氏がゲストで登場し共演。さすがに今年はほかにゲストボーカリストの登場はなかったが(初日は永積タカシが出たらしいけど)、そんなことはまったく問題なく貫禄のステージだった。「A Quick Drunkard」「White Light」「SKA ME CRAZY」「ゴッドファーザー愛のテーマ」あたりは鉄板というべき盛り上がり。ぶっちゃけ言えば、スカパラはレコード聴かなくてもライヴに行けば全てがわかる。

 スカパラ後、ブンブンサテライツ経由でこの日のためにすべてをかけていたLOOPA NIGHTに行く嫁とはしばらくお別れ。僕はそのままサンステージでBUMP OF CHICKEN。この夏いくつかのフェスやイベントに出ている彼らだが、昨年頭のツアー以来この1年半近くライブをしていなかった。そして、僕はそのツアー、チケットが取れず見逃していた。つまり、僕は『ユグドラシル』以降出たシングルを全くライヴで聞いたことがない。ブンブンサテライツとのかぶりは非常に痛かったが、仕方がない。シンプルな照明の中、大きなステージの中央に揃った4人がいきなり演奏したのは「乗車権」。『ユグドラシル』の中でも最もテーマ的にヘヴィーな曲のひとつだが、こういう曲で始めるあたり、彼らのちょっと挑戦的な意識を感じる。しかし、次からは空気は一変し、この夏まで誰もまだ生で聞いたことのなかった「涙のふるさと」へ。麦藁帽子をかぶった藤原は、久々のライブのせいもあってかMCでも結構よくしゃべっていた。真夜中の風はやや肌寒いくらいだったが、「暑い、楽しい」といい、最近のシングル曲を連発。あまりライヴでこなれていないはずの曲も演奏は安定している。ここ2,3年の彼らの音楽的成長はやはりすごいと思う。「ガラスのブルース」をやってくれたのがうれしかった。青臭いことは青臭いが、今彼らが歌っても若い時の曲を無理して歌っている感じがしない。バンプの曲はいつでも、ここから始まってずっと地続きのまま成長し、広がってきたのだと実感する。純粋な新曲はまだ聞けなかったが、ごく初期の曲と最新シングルが同居したセットは彼らの歴史を軽く総括するかのような奥行きを持っていたと思う。ラストは「supernova」。しっとりとしたイントロから、広がりのあるサビの大合唱まで、ドドドっと熱を帯びていく様は、ちょっと圧巻だった。これは泣く。ニューシングルも決まったし、3年ぶりの新作は近いのか。これもまた、すごいことになっていそうだ。

■SET LIST(BUMP OF CHICKEN
1.乗車権
2.涙のふるさと
3.真っ赤な空を見ただろうか
4.プラネタリウム
5.ギルド
6.天体観測
7.ガラスのブルース
8.supernova


 さすがにこのまま朝までサンステージにいるわけにも行かず、ACIDMANはパス。風がだいぶ冷たくなってきて黙っていると寒いのでラーメンで暖を取る。うまい。今のうちにトイレに行っておこうと思ったが、既にアーステント横のトイレは全滅しており、ヘヴンズテントサイト側のエリアで使えるトイレは一部のみとなっていた。当然ものすごい行列。待っているうちにブルーハーブの時間が迫ってきてしまった。急いで用を足し再びサンステージに戻る。一番前近くのポジションで待つ。真夜中とは言え、この最も大きなステージに彼らをブッキングしたのは個人的にはWESSの気概を感じた。札幌は平岸在住、新作も素晴らしかった北のヒップホップユニット、THA BLUE HERB。だだっ広いステージに1DJ1MCのみ。正真正銘の2turntables& a microphone。澱むことなく、派手な手振りと大げさなアクションで自らの哲学と現状認識で会場を切り裂いていくBOSSのライム。広い、孤独なステージ上の彼は、まさに、大群に一人で挑まんとする侍のようだった。僕は息を呑み、ただただステージに向かい立ち尽くすしかなかった。鳥肌。戦慄。前のエリアこそ彼らを歓迎していたものの、全体としてはアウェイのムード。それを、彼は自らの言葉のみで変えていった。2007年モードの新曲群をまとめた前半から、「Ill-Beatnik」をひとつのクライマックスに、「Tenderly」「Brother」「この夜だけは」で感動のラストを迎えた後、最後は大歓声だった。このステージを用意してくれた全ての人と、会場にいた全てのオーディエンスに感謝の言葉を何度も何度も繰り返し、BOSSはステージを去った。何度も振り返り、礼を言っていた。この戦いこそ、TBHが始動以来、札幌で、全国で、孤独に続けてきたものに他ならない。しかし、BOSSのライムはやはり、挑発的なものではなく、聞き手に語りかけるようなものだ。それも、胸ぐらつかんで無理やり聞かせるのではなく、自然と耳がひきつけられていくのだ。TBHのライヴは何度か見ているが、ここまで魂が震えたことは初めてだった。素晴らしい体験だった。この日の勝利は決して小さなものではないだろうが、これで何かが変わったり終わったりするものではない。先は長い。深い。言葉にならないくらい。どこまでも、ついていこう。

■SET LIST(THA BLUE HERB
1.Run 2 You
2.PHASE3
3.C2C4
4.MAINLINE
5.Stoicizm
6.Ame Nimo Makez
7.Ill-Beatnik
8.Tenderly
9.Brother
10.この夜だけは