時代に向き合うロック。
- アーティスト: 佐野元春
- 出版社/メーカー: Daisy Music
- 発売日: 2007/06/13
- メディア: CD
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (46件) を見る
前作『THE SUN』は、9.11以降の世界に対する認識も交えつつ、現代の日本に生きる人間の生活を描き出した傑作だった。あのアルバムで描かれていたのは、様々な場面に翻弄される市井の人々の姿であり、各々がそれぞれの生きる意味を問いただすことそれ自体が希望であると言うアルバムだった。答えはなく、ただ、生きることで光を見つけようという、云わば「癒し」のアルバムであったと思う。しかし、このアルバムではさらにそこから深く切り込んで、明確にこの時代に対してのひとつの答えを提示するに至っている。簡単に言えば、攻撃的で、辛辣で、心をひきつけるロックンロールが犇いている。そのストーリーを描くためには普通に生きる人々が主人公では成り立たないので、元春は「コヨーテ」という一人のキャラクターを作り上げ、その主人公をもとにロードムービーともいえるストーリーをこのアルバムで紡いでいる。この荒地の中で、さまよえる魂は海へと向かうと言う、一つの結論を彼は提示している。非常にナイーヴな結論でもあると思うが、元春は今作でどんな形でも、前作では言い切れなかった答えを出すべきだと思ったに違いない。ポップミュージックが、ロックンロールが、現在を映す鏡であるとするならば、ミュージシャンとして自分はそれをやらなければならない。そう思ったに違いない。繰り返すが、51歳である。過去の栄光に寄り添って食いつないでも誰も責めはしないだろうに(それだけの実績が彼にはあるし)、しかし佐野元春という人はあくまでも現役であろうとし、そのために自分が作り上げたロックンロールの文体を解体し、もう一度作り上げるというとてつもないことまでやってのけるのだ。思えば25年間、僕はこの真摯さにこそ惹かれてきたのだと思う。本当にいいアルバムだと思う。
「君が気高い孤独なら」このタイトルだけで、僕はもうヤラれてしまう。このサブタイトルに「Sweet Soul Blue Beat」とつけるセンス。ビート詩人としての佐野元春の能力が存分に発揮されていると言う意味でも非常に魅力的なアルバムだと思う。