もう、音楽は排泄ではない。
- アーティスト: Cocco
- 出版社/メーカー: Viictor Entertainment,Inc.(V)(M)
- 発売日: 2007/07/25
- メディア: CD
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その自覚というのは、急に出てきたものではないと思う。SINGER SONGERの活動を経て、ソロとして復活したのはまさに、彼女が歌を歌う人間として自立しようとしたことを示している。その時に、どうしても超えなければならなかったのは、地元沖縄への想いと、沖縄で過ごした過去に対してのけじめである。沖縄に対して強い思いを抱きながら、表現者としてそこに向き合えなかったCoccoは、昨年デビュー以来初めて沖縄でコンサートを行った。かつて沖縄で過ごしていたときの、価値のない人間だった自分を、彼女は初めてそこで許し、乗り越えることができたのではないだろうか。バレリーナという夢を挫折し、代わりに仕方なくやっていた歌手という職業を、自分の意思でこの道を進もうと決めたのではないだろうか。そういう、吹っ切れた強い意志をこのアルバムからは感じる。
活動休止からの復活作となった前作『ザンサイアン』は、歌手としてのCoccoをデビューからずっと導いてきた根岸孝旨と、長田進がプロデュースを行った。その中で、今作に通じる風通しのよさを感じさせたのは長田プロデュースの曲だった。その時から、このアルバムの方向性はおぼろげに見えていたのだろう。沖縄の一軒家を改造したスタジオでレコーディングされた今作はカバーや民謡など、様々な曲が収められ、全18曲という、彼女のアルバムとしてはこれまでにないボリュームになっている。全体のまとまりという意味では正直、これまでの作品に比べれば弱い。中にはデモヴァージョンか、というようなざっくりとしたアレンジのものもあり、きちっとまとまった作品を作ろう、というより、出てきたものをとにかく何でも入れるんだ、という、本能的な衝動に基づいてレコーディングされたのではないかと思う。長田はプロデューサーとしてかなり難しかっただろう。しかし、その分、ここにはこれまで以上にリアルなCoccoの歌と、彼女が自分の才能をどうやって広げていこうかというワクワクした気持ちが前面に出てきている。息苦しくなるほど濃密なアレンジで、復讐と情念を叩きつけるようにして歌っていたCoccoはここにはいない。憑き物が落ちたような、さわやかなアルバムになっている。素直に祝福したい。