無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

少年期の終わり。

Twilight of Innocents

Twilight of Innocents

 紅一点だったシャーロット・ハザレイが脱退し、ファーストアルバム以来3ピースに戻ったASHの新作。前作『メルトダウン』は、ハードなリフが前面に出たメタル色の強いギター小僧としての欲求爆発なアルバムだった。その中にも彼ららしいポップなメロディーが光る佳作ではあったのだが、セールス的には伸び悩んだようだ。シャーロットのソロ活動、区切りとしてのベスト盤などを経て、3ピースに戻るという決断をし、心機一転ニューヨークでのレコーディングを行ったこの新作は、ASHの新章スタートを強く印象付けるアルバムになっている。
 3ピースになった分、音の隙間が増えた感があるが、それを無理に埋めることはせず、できるだけシンプルにまとめようとしているのがいい。ティム・ウィーラーのメロディーは相変わらず冴えていて、ヘヴィーな曲でも、ポップな曲でも、胸キュンのバラードでも全て高いレベルにある。しかし、このアルバムは例えば名作『フリー・オール・エンジェルズ』のようにきらきらと輝いているどこから見ても完璧なポップ・アルバムとは違う。どこか、陰があるのだ。彼らはまだ30になったばかりとは言え、デビューしてすでに10年を経たバンドである。アルバムタイトルからも伺えるが、少年から大人へと成長する中で、失ってしまったものも多かっただろう。シャーロットの脱退という決断を下したこともそうだろうが、様々な苦境を乗り越えてきた中で、無邪気に過ごしていた時代はもう終わったと考えたのかもしれない。もちろん、失った分、強くなってもいる。そんな深みがこのアルバムには現れている。ストリングスをフィーチャーしたタイトル曲をはじめ、新境地といえるアレンジも随所に見られる。いいアルバムだとは思うが、今のUKロックの潮流からは正直言えば外れているとも思う。ただ、そんなの関係ねぇというか、彼らの音楽創作にはあまり意味を持たないことだろう。ある意味、デビュー以来彼らはずっとシーンから無関係に活動していたともいえると思うからだ。いろいろな経験を経ても変わらないのは、ティムの作るピュアなメロディーの素晴らしさだ。それがASH最大の魅力である。