無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

もっと濃いいのお願い。

Planet Earth

Planet Earth

 『ミュージコロジー』『3121』と、順調にリリースを重ね、しかも往年のプリンス節がまったくケレン味なく発揮されていたので、昔からのファンも嬉し涙を禁じ得なかったここ数年の殿下の活動である。そんな期待の中今作は、レヴォリューション時代のメンバー、ウェンディ&リサやシーラ・Eなども参加し、さながら同窓会とでもいう雰囲気のアルバムなのだが、なのだが、いかんせん曲が弱い。アレンジも弱い。なんというか、あまり練られた感じがしないのだ。
 近年のプリンスの思想を支配している宗教的なテーマの曲はタイトル曲と終盤の2曲くらいで、それ以外は精力絶倫なセクシャルラブソングが主体。それはすごくいいのだけど、演奏も歌詞も、なんというか、プリンスならこれくらい目つぶっててもできるだろうってレベルのものに収まってしまってる気がする。凡百のアーティストからすれば十分なんだろうけど、ここにあらせられるのはプリンスである。しかも、『ミュージコロジー』以降の仕事を見ていれば、この新作にかかる期待も大きくなろうというものだ。そういう意味ではちょっと欲求不満な内容ではある。その中でも「サムウェア・ヒア・オン・アース」や「フューチャー・ベイビー・ママ」のような、ファルセットで聞かせるR&Bバラードなどはすごくいい感じ。殿下自らラップを聞かせる「Mr・グッドナイト」もいい。『ブラック・アルバム』期を思わせるど真ん中ファンク「チェルシー・ロジャース」も好き。なんだかんだ言って聞いてりゃ盛り上がるのである。しかし、どっかやっつけ仕事的な匂いもしてしまう作品だ。たまにプリンスはこういうアルバムを作る。でも、アルバム云々を抜きにしても年中レコーディングをしているだろうお人だ。この裏でとんでもないアルバムを作っているんじゃないかという気がしてもいるのだ。最近はリリース間隔も短いし、来年あたり素晴らしい密度の濃いいアルバムを出してくれるんじゃないかという期待をしている。彼のカタログの中では、やっぱこれは薄いでしょう。残念ながら。