無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ブリキの兵隊。

Zeitgeist

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 スマッシング・パンプキンズ7年ぶりの復活作。その間、ZWANやソロと活動していたビリー・コーガンであるが、やはりパンプキンズという形態が最も自分の表現欲求を満たすものなのだという結論に至ったのだろうか。とは言え、ジェームズ・イハもダーシーもここにはいない。ビリーとジミー・チェンバレン以外のメンバーはオーディションで選ばれた人間で、今回のアルバムのレコーディングには参加していない。今作はジミーのドラムと、その他全ての楽器をビリー一人で演奏している。どういうやり方にせよ、ビリーのソロユニット的な意味合いが強くなるのは間違いないのだが、このアルバムがなぜパンプキンズとして作られなければならなかったのか。
 ビリー・コーガンという人にはある種のバンド幻想のようなものがあったのではないかと思う。脆弱な人間でしかない自分が世界と戦うための鎧として、バンドという形がどうしても必要だったのではないか。一人ではだめでも、バンドとして集まれば何かができる。そういう、自分を認めて受け入れてくれる集合体としてのバンド幻想。前回のパンプキンズ解散は、その幻想が壊れてしまったことが原因だったのじゃないかと思う。新しくバンドを作っても、一人になっても、結局、何も変わらなかった。だったら、そんな幻想など無いところからもう一度パンプキンズを始めるのだという、半ば開き直りのパワー。そんな哀しい決意がこのアルバムからは見えてくる。アルバムの内容は、曲の多くが現在のアメリカに対しての辛辣な批判をテーマとしている。非常に分かりやすい。分かりやすすぎて、これがビリー・コーガンの本当に今歌いたいことなのかどうかが個人的には曖昧のようにも思える。「戦うポーズ」として最も分かりやすいテーマを選んだだけなんじゃないのか、と勘ぐりたくなる。いやな聞き方をするロックファンだなと自分でも思う。
 何にせよ、「メロンコリー」のようなアルバムを今期待しても無駄なのは承知の上だし、あの頃よりも人間的に成長したであろうビリー・コーガンが鳴らすのはまた違うロックになるはずだと思っている。ジミーの素晴らしいドラミングもあってこのアルバムは非常によくまとまっている。パンプキンズのアルバムとして十分な完成度だと思うが、このアルバムでどこまでビリーが自分をさらけ出しているのかはちょっと疑問だ。このアルバムは、ビリー・コーガンという人がパンプキンズが自分が世界と戦うための鎧であり武器である、という事実を再確認するためだけのものだと思う。仮にそれがハリボテであったとしても。