無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

実はすでに41歳。

World Within a World

World Within a World

 盲目の天才ギタリスト、ラウル・ミドンのセカンド。1曲目の先行シングル「ピック・サムバディ・アップ」は、ストリングスも入って前作のシンプルなサウンドよりもゴージャス感があり、やや凡庸なR&B/ソウルっぽくなっちゃったかな?と思ったのだけれども、聞き進めていくうちにミュージシャン・表現者として1枚目よりもきちんと前進している彼の姿が浮かび上がってきた。
 彼の妻に対する思いを歌った曲や、幼い頃死別した母親に対しての感情を歌った曲、政治的なアティテュードを明確にした曲もあるし、彼自身のルーツのひとつでもあるアルゼンチンの民族音楽を取り入れた曲もある。ラウル・ミドンという一人の人間の姿が、様々な側面から透けて見えるような、体温のある曲ばかりなのだ。「ザ・モア・ザット・アイ・ノウ」や「カミナンド」といった曲では、彼が盲目であるがゆえに世界をどのように捉えているのか、視覚ではなく、触覚や、聴覚や、嗅覚や、その他の器官で捉えているということが分かるような歌詞が並んでいる。それは逆に我々にとっては非常に色彩感豊かな比喩となって音楽に奥行きを与えている。
 超絶テクニックのアコースティック・ギターやマウストランペットは当たり前のように彼のサウンドの一要素となっている。一人多重コーラスのアカペラナンバーもあったり、新しいことにも挑戦している。1曲1曲に彼の明確な意思が詰め込まれていて非常に誠実に真摯に作られたアルバムだと思う。こういうアーティストは非常に信頼できる。やっぱり長い付き合いになりそうだ。