無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

HIS WINDING ROAD

Hummingbird in Forest of Space(DVD付初回限定盤)

Hummingbird in Forest of Space(DVD付初回限定盤)

 前作『39108』は、40代を前にして、吉井和哉がロックファンとしての自分、ロックシンガーとしての自分、かつてバンドにいた自分、ソロになってからの自分、に対してひとつのけじめをつけたような「禊ぎ」のアルバムだったと思う。今回も海外のミュージシャンと現地でレコーディングされているが、音の感触は前作とはかなり違う。ギターをはじめ吉井自身が演奏したパートも多く、いい意味で「軽さ」のある音になっている。しかしそれはまさしく吉井和哉にしか鳴らせないロックとなっていて、ようやくここに来て等身大のロックアーティスト吉井和哉のサウンドが本領発揮し始めた、という気がする。
 ボーカルはイエモン時代のようなドラマチックな熱さはないが、淡々としながらもここというところでギアを上げる自在さがある。今回はどの曲もひと癖あるメロディーとアレンジが効いていて、前作のようにカッコいいけれどもやや一本調子な感じはしない。曲単体で取り出すよりも、アルバム通して聞くことでその世界観が大きなうねりとともに姿を現すような作りになっていると思う。事実、シングルでは余りピンと来なかった「Shine and Eternity」や「WINNER」は本作中では全く印象が違う。
 歌詞は、オヤジギャグのような駄洒落やセクハラやシュールな世界を交えつつも、基本的には40歳になった彼の新たな決意というものがストレートに反映された清々しいものになっている。ここに至る紆余曲折に対してシニカルになることも目を背けることもなく、それを踏まえてなお前進する意思。それが眩しい。ラストの「雨雲」は感動だ。エレカシ宮本、民生、草野マサムネなどなど、40才前後のミュージシャンが作る音楽はまさに今35歳の自分には直撃で響いてくるものが多い。それは僕が彼らのことが好きだから、という単純なことではなく、彼らの曲の中に人生が透けて見えるからなのだと思う。境遇は違えど、かつて彼らがいた逡巡や葛藤の中に僕も今いることが感じられるからなのだろうと思う。吉井和哉のこのアルバムも、そういうものになっていると思う。