無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

アバンギャルドなポップスで行こうよ。

娯楽(バラエティ)

娯楽(バラエティ)

 東京事変の3枚目。本作で椎名林檎は作曲の全てを他のメンバーに任せ、自分は作詞と歌に専念している。それってどうなのよ?と最初は思ったが、先行シングルの2曲はじめアルバムを聞けばなるほどの出来だと思う。悪く言えば薄っぺらだが、いい意味で軽く聞ける、彼らの考える「ポップ」な音が鳴っている。
 「ポップ」ではあるが、最初からそう意図された「大衆音楽」であるかと言うと、決してそうではない。クラシックなどの、環境や設備が整った状態で聞くべき音楽に対しての「軽音楽」という位置づけだと思う。非常に切実で真摯な意思を持って作られた軽薄さを持つ音楽だと思う。メロディーもアレンジも、どこからどういう音が出てくるのか、次にどういう展開になるのか想像がつかない。音の粒がプチプチとはじけて目の前をカラフルに彩るような音楽。後期のJUDY AND MARYをちょっと思い出すようなアバンギャルドなポップス(当時ジュディマリにはそれこそ『POP LIFE』というアルバムもありました)。メンバーそれぞれが好き勝手にプレイしているように見えて、きちんと総体としてのバンドサウンドは歪でありながらポップにまとまっている。面白くて楽しいアルバム。
 今後もこうした創作形態が続くのかどうかは分からないが、やはり椎名林檎作曲のアウトプットもバランスとしては必要だと思う。聞き手としてもバンドとしても。今回は東京事変としてのポップ音楽を提示することと、バンドのポテンシャルを証明するために意図的に振り切った形で制作された作品だと思うので、今後4人のソングライターが火花を散らすようなアルバムができればまた世界が広がっていくんじゃないのかな。最近のオアシスのアルバムの感想みたい。