無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

スピッツというジャンル。

さざなみCD

さざなみCD

 オリジナルとしては通算12枚目のアルバム。メジャーデビューしてから16年、結成してからは既に20年。2007年でメンバーは全員40代を迎えた。にもかかわらず、本作でのスピッツはここ数年の中でも一番と言っていいくらいに若々しく、爽やかだ。アルバムのタイトルも、いかにもオッサン然としたバンドがつけていたら冗談にしかならないが、今のスピッツならば全く違和感が無い。そのくらいすがすがしい音が鳴っている。特に、「僕のギター」「桃」「群青」と続く冒頭はちょっとすごい。必殺のアルペジオもはちきれんばかりの瑞々しさである。
 前2作に引き続きプロデュースは亀田誠治氏だが、特にロック色を出そうとか新機軸を出そうという意図は余り感じられない。むしろ、スピッツの魅力や武器を更に磨いて臆面も無く前面に出すくらいのいい意味での開き直りがある。でも僕はそれで正解だと思う。若いバンドでもこんなに爽やかな音(ボーカルも含めて)出せるバンドはいないと思う。いいメロディーといい演奏、いいアレンジ、そしてマサムネの声。スピッツスピッツたらしめている要素をきちっと掘り下げてやることでこのアルバムは成り立っている。それが「これ、前も聞いたことあるよ」にならずに新鮮な輝きを放つところがすごい。
 歌詞は、基本的に恋愛を基調としながらも所々に草野マサムネの達観した人生観のようなものが見え隠れする。以前に比べエロティックな描写や毒が薄いが、「僕のギター」のように、前向きな希望が中心の今の作風には合っていると思う。2007年の新作だけど、鳴った瞬間にスタンダード。そのくらい充実したアルバムだと思う。