無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

完璧なオジサン。

吉井和哉 “Dragon head Miracle Tour 2008”
■2008/02/01@Zepp Sapporo
 寒さ厳しい2月の札幌だが、この日は開演前から熱かった。会場には若いロックファンと、イエモン時代から彼を追いかけてきたであろう妙齢のご婦人方が同居するという、今の吉井和哉ならではの光景があった。新作のイントロダクションから、「Do the Flipping」でライヴはスタート。吉井はネックのシャツにコートと、派手な衣装ではなかったが、その姿から現れるオーラはまさにロックスターそのもの。新作からの曲が中心になると思っていたけども、序盤にいきなりイエモンナンバー、しかも「サイキックNo.9」なんつう意表を突いた曲をやってくれて驚いた。その後も「Tactics」が来た時は「これ来るか!」という感じでかなりびっくり。「るろうに剣心」見てた世代にはたまらなかったでしょう。バンドは、ドラムにJosh Freeze、ギターにJulian Coryellという、レコーディングではおなじみの顔が強力にサポート。特にJoshのドラムはすごくて、外国のドラマーというのはスネアの出音一発でもうキレと音圧が違うのが丸わかり。ジュリアンもその陽気なキャラクターでステージの盛り上げに一役買っていた。吉井が彼らに対して絶対の信頼を寄せていることもよくわかる。
 今回のセットは、YOSHII LOVINSON時代の曲もかなり演奏していたし、しかもかなりバキバキの曲が多くセレクトされている。純粋にバラード系の曲はあまりなかったように思う(実際はあったけど、演奏がかなりアッパーだったのであまり感じなかった)。特に中盤、「人それぞれのマイウェイ」から『39108』の曲が並ぶ展開ではバンドのソリッドな演奏もあり、ロックンロールモード全開でかなりアゲアゲだった。「黄金バット」でのジョシュのドラムは壮絶の一言。「マンチー」での客の大コーラス(「始まった!」)も楽しかったし、「WEEKENDER」ではがっつり盛り上がると共に、金曜の夜に大声出して盛り上がっている35歳の自分と曲のテーマがリンクして少しセンチな気分になったりもした。吉井のテンションも最初から最後まで高かった。「札幌、どうしちゃったんだよ!」「(2日公演だけど)明日はもうやらなくていいか?」とか、終止上機嫌。「Pain」では「帰ったらみんなセックスしろー!」とセクハラMCも炸裂。ボーカルはもちろん、パフォーマンスは最高で、聞いていても見ていても全く不安なところのない堂々のステージだった。ロックのライヴだと、音程が不安定だったり、高音がかすれたり、バンドがミスったりなどそれもまたライヴの魅力と言ってごまかしてしまいがちで、ここまで圧倒的なパフォーマンスというのはなかなか見られるものじゃないと思う。素晴らしかった。
 アンコールでは「オリジナルを演奏したドラマーがいるので」ということで、『at the Black Hole』から「TALI」を演奏。続いて「BLACK COCK'S HORSE」と、ソロデビュー作から聞けたのも意外。続いてイエモンナンバー「見てないようで見てる」というのも本当に意外。その分、これやって欲しかったとかあれも聞きたかったという曲はたくさんあるのだけど(少なくとも新作から「バッカ」はやって欲しかった)、これだけのステージを見せられたら不満を言えるわけもない。ソロになってからの彼は常に「ファンの求める吉井和哉」と「アーティストとしての吉井和哉」の間で揺れ続けていたと思うのだが、その二つがようやく幸せな合致を見始めているというのが会場の雰囲気からもよくわかった。ここに来て迷うことなく自分のロックを(イエモンも含めて)消化しはじめているし、また、新しい扉をブチ破る勢いでこのツアーを回っているのだという気がした。新人アーティストのステージを見たような清清しさと、ベテランならではの技と奥深さが同居したライヴ。このツアーは必見だと思う。

■SET LIST
1.Introduction〜Do the Flipping
2.Biri
3.サイキックNo.9
4.HOLD ME TIGHT
5.ルーザー
6.Tactics
7.CALL ME
8.HATE
9.人それぞれのマイウェイ
10.黄金バット
11.ALL BY LOVE
12.I WANT YOU I NEED YOU
13.Pain
14.PHOENIX
15.マンチー
16.WEEKENDER
17.シュレッダー

18.TALI
19.BLACK COCK'S HORSE
20.見てないようで見てる
21.Shine and Eternity