無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

人生と言う名の旅は続く。

地球の裏から風が吹く

地球の裏から風が吹く

 約1年8ヶ月ぶりの新作。前作もそうだったが、疾走感ある轟音ギターをフィーチャーしたような曲よりもむしろミドルテンポでじっくりと歌い上げる曲が印象的だ。個人的には「野良犬、走る」や「白昼の行方不明者」のような、寂寞感漂うどっしりとした曲がいい。演奏もどんどん深く渋みを増していっている。「沸点36℃」の乾ききった詩情を涙で振り切るようなギターソロも実にカッコいい。故・石田徹也氏の作品を使用したアルバムカバーも素晴らしすぎる。
 生まれてきた意味は知る由もなく、こんな生活くだらねぇと吐き捨てて世を儚んでみても何が変わるわけでもなく。しかし、自ら望んだわけではないこの生を何とか価値のあるものにはできないのか。死ぬ時に意味のある人生だったと思えるようにもがき続ける、その決意としての音楽。イースタンユースが「反抗としてのロック」なのだとしたら、その闘いは無為にこの世に産み落とされた生を自分の手に奪還するためのものに他ならない。それとともに、彼らの曲には抑えようのない諦念がついて回る。呆然と夜と朝が繰り返すのを見ているしかない無力な傍観者としての自分。闘争と無力さ、その両者がせめぎ合うことで唯一無二のエモーショナルなロックが生まれるのじゃないか、などと考えた。絶望と孤独に苛まれ、いくら無力感を抱えたとしてもイースタンユースの曲はそこから逃げない。ドン・キホーテのように無様で滑稽でも、もがきながら人生と言う名の旅を続けるのである。単なるネガティブな自虐とは百万光年離れた、自分と世界を見つめるギラギラした視点はますます冴えて行くばかりだ。お世辞にもスマートとは言い難い無骨な音が、声が、言葉が、いちいち胸に突き刺さる。20歳そこそこでイースタンユース聞いているような若いファンも当然いるだろうけど、30過ぎたらもっとクるので楽しみにしてるといいと思う。