無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

メリハリ鳥。

奥田民生 okuda tamio FANTASTIC TOUR 08
■2008/03/21@北海道厚生年金会館
 圧巻だった、と言っていいと思う。や、そんな控えめな言い方じゃない。圧巻そのもの。『Fantastic OT9』という民生印のロックンロールを凝縮したような素晴らしいアルバムを引っさげてのツアーは、まさにロックンロールなドライヴ感と圧倒的なサウンドとボーカルによって塗りつぶされていた。バンドは民生、小原礼湊雅史斉藤有太というおなじみの布陣。ロックバンドとしては最小限と言える編成でありながら、出てくる音はとんでもないレベルに達していた。
 「イナビカリ」からスタートし、新作から立て続けに演奏されていく。昔の曲は6曲目にようやく「野ばら」、中盤でさらっと(本当にさらっと)「マシマロ」をやったくらいで、とことん新作の曲にこだわったセット。ユニコーン時代の「家」などという地味な曲を選ぶあたり、とことん客を無視したと言ってもいいような選曲だと思った。普段から民生は「新しい曲を書くのはライヴをやりたいから」という旨の発言をするし、新作は民生のロック総決算的な内容だったので、とにかく新曲をやりたかったのかもしれない。アコースティックな「今から海を」以外は全部やっていた。個人的に一番引き込まれたのは「鈴の雨」。後半のギターソロはかつての「手紙」のようなテンションで、バンドのアンサンブルも温度がぐいぐい上がって行き、上がりきって終わったような、ものすごい演奏だった。民生のひとりギターも全く不安のないほぼ完璧と言っていい演奏。また上手くなったんじゃないかと思いながら見ていた。バンドは当然安定していたのだけど、湊氏のドラムだけは何がそんなに腹立つことがあったのかと思うくらいずっこんばっこん叩きまくっていた(いつものことか)。MCはいつにもましてゆるゆるのグダグダ。音がこれだけバキバキのロックなのに、しゃべりだすと途端に空気がゆるむ。しかしまた演奏が始まると目の前がロック一色に染まるのである。不思議な人だ。「3人はもりあがる」の頭のコードを間違えてやり直したのもご愛嬌ってものである。「トロフィー」「ギブミークッキー」「プライマル」と、後半のクライマックスでロック色の強い曲を立て続けにやったが、これが本当に最高だった。ラストの「明日はどうだ」まで含め、とにかく本編では自分たちの好きなように好きな曲、やりたい曲を演奏する、というはっきりしたコンセプトがあったのじゃないかと思う。それくらい、不親切なセットだったのだ(特に代表曲しか知らないようなライトな客にとっては)。でも僕はこれで正解だったと思う。民生くらいになれば代表曲を所々織り交ぜて誰もが満足するような選曲などいくらでもできるだろう。あえて中途半端なことはせず、自分たちが新作で追求したロックを一番いい形で演奏できるよう、特化した選曲にしたのである。そのため、この本編は民生のツアー史上でも屈指のソリッドかつロックモード全開の内容になっていたと思う。
 そして、最初のアンコールでは「イージュー★ライダー」、2度目のアンコール、ラストは「さすらい」と、わかりやすすぎるくらいベタにみんなの求める曲を演奏してくれた。アンコールはファンサービスと割り切っていたとしか思えない。本編でやりたいことをやり切っているからこその、このコントラストである。当然のように盛り上がりは最高潮に達し、3度目のアンコールを求める拍手も結構な時間鳴り続けた。これだけの音を浴びさせられたらもう降参としか言えないような、すごいライヴだった。まだ見ていない人は見た方がいい。当然、新作はその前にチェックしておいたほうがいい。これをスタンディングではなく椅子つきの会場で回ると言うのも、きっと意図的なものなのだろうな、と思った。それがなんなのかはわからないのだけれども。

■SET LIST
1.イナビカリ
2.スルドクサイナラ
3.フロンティアのパイオニア
4.アドレナリン
5.いつもそう
6.野ばら
7.3人はもりあがる(JとGとA)
8.カイモクブギー
9.マシマロ
10.ちばしって
11.鈴の雨
12.愛のボート
13.家
14.なんでもっと
15.無限の風
16.トロフィー
17.ギブミークッキー
18.プライマル
19.明日はどうだ
<アンコール1>
20.快楽ギター
21.イージュー★ライダー
<アンコール2>
22.さすらい