It's up to us.
- アーティスト: Radiohead
- 出版社/メーカー: Xl
- 発売日: 2007/12/27
- メディア: CD
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そう思いつつダウンロードしたmp3と、発売されてからはCDをipodに落としてと、計50回以上は聞いたと思うが、これは間違いなく、レディオヘッド史上最も美しく完璧なフォルムを持つアルバムだと思う。敢えて言えばその美しさは前作『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』の後半に通ずるものがあるが、アルバムの中心にある視点が全く違う。前作のタイトルは間接的にしろブッシュ大統領を揶揄したものであるように、レディオヘッドはマクロな視点で現代のこの病んだ世界を俯瞰していた。今作においてはそうしたグローバルな視点は見られず、もっと1人称的な、ミニマルな視点で各曲が描かれている。サウンドはギターの柔らかなアルペジオを中心に、バンドアンサンブルや打ち込みによるリズムで彩られている。様々な音が緻密に練り込められているが聞いた感触はあくまでもシンプルだ。
前述のダウンロードサイトには大きく"It's up to you."と書かれていた。全てはあなた次第。件のサイトではダウンロードの値段のことだが、これはレディオヘッド側から提示された、今作を紐解くための大きなキーワードであるだろう。世界そのものを描くのではなく、その世界に生きる個人の視点を持ってきたのも同じ意図だろうと思う。世界は変わらなくても、個人の考えはいくらでも変えることができる。それがやがて世界を変えることになると言うのはあまりにもナイーヴな希望だが、その可能性が確実に否定されたこともまた、無いのである。その事実のみが唯一の希望。レディオヘッドが鳴らしてきた希望は、いつだって絶望の裏にあるそんなささやかなものでしかなかった。このアルバムは時に激しく時に静謐に、ひとり部屋の中で思考に暮れる際の感情の起伏を丁寧に縁どっていく。
終曲"VIDEOTAPE"の一節"I know today has been the most perfect day I've ever seen."これを皮肉と取るのかストレートに取るのか。それだけでも今作の印象は大きく異なると思う。僕は後者。全てはあなた次第。つまりは僕次第。