無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ロックが「生演奏」であるということの意味。

Philharmonic or die

Philharmonic or die

 2007年12月11日、12日にパシフィコ横浜で行われたウィーン・アンバサーデ・オーケストラとの共演ライヴ。そして同12月6日京都磔磔での250人限定ライヴ。いまやあまりにも幅広くなったくるりというバンドの表現の両極を克明に記した究極のライヴ盤。前者では百戦錬磨のギタリスト佐橋佳幸が、後者では藤井一彦(THE GROOVERS)がサポート参加している。ドラムのあらきゆうこを含めたバンドの力量をあますところなく記録しているという意味でも、屈指のライヴ盤だと思う。
 1枚目はオーケストラとの共演ということで入念にリハーサルを繰り返していると思うが、その中でギターロックの意地とでもいうべきアレンジの妙が時折現れるのが面白い。「春風」のアウトロでの佐橋氏と岸田のギターソロ応酬などがそう。ライヴならではの興奮が味わえる。「惑星づくり」などはオリジナルよりも数百倍カッコいい。オーケストラもプロの仕事をきっちりと見せてくれている。よくよく考えればクラシックというのは全てがライヴのようなものだ。コンサートはもちろん、CDのレコーディングだってホールを使って一発録りである。失敗したらそこだけオーヴァーダブでかぶせて修正なんていうロックやポップスの世界とは基本的に「音を出す」ということへの責任が段違いなのだ。その緊張感に、逆にくるり側がひとつ上のレベルに引っ張られたような印象すら受ける。
 2枚目は、ライヴハウスならではの勢いや熱、ザラザラしたロック感が前面に出ている。「青い空」「すけべな女の子」「モノノケ姫」あたりが聞き所だろう。くるりのシンプルなロック編成での魅力がよく出ている。アコースティックな曲もいい。そして、このライヴ盤全編を通じて象徴的な曲はと言うと、両方に収録された「アナーキー・イン・ザ・ムジーク」ではないかと思う。オーケストラと一緒にオリジナルに沿ったアレンジで演奏した1枚目と、オケがない状態で曲の本質のみをつかまえようとする2枚目。この対比は、今のくるりのサウンドの全体像を1曲に凝縮したような感すらある。
 ロックファンであれば、少なからずライヴ・アルバムというものへのロマンチックな感慨というものがあると思うのだけど(偏見?)、個人的なそれにもかなりのレベルで応えてくれた傑作。この先、くるりのどのオリジナルよりも繰り返し聞くことになると思う。パシフィコのコンサートは完全収録でDVD化されるようだけど、その前にこうして音だけでのパッケージでリリースするということにくるりの意思が見えるような気がする。そして、本作により「ワルツを踊れ」以降のクラシックへのアプローチにもひとつの句読点が打たれることになったと思う。次のステージへ進むための準備は整った。楽しみだ。
横濱ウィンナー [DVD]

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