無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

信ずるに足る音。

Bedlam in Goliath

Bedlam in Goliath

 約1年半ぶりのマーズ・ヴォルタ4作目。オマー・ロドリゲスは昨年ソロアルバムも2枚リリースするなど、その制作ペースは驚くべきものがある。音楽が出てきてどうしようもない状態なのだろうか。前作に続いてジョン・フルシアンテが全面参加している。すでにバンドの一員のような感じになっている、みたいだ。すごい話。
 本作も12曲75分という大作だが、冗長さはほとんど感じない。彼らにしては曲のサイズがコンパクトで(とは言っても平気で8〜9分の曲もあるが、あくまで彼らにしては、ということ)、かつ曲の展開が比較的分かりやすいからだろう。勢いのある短いパートを繋ぎ合わせ、次から次においしいリフが溢れてくるような展開は聞いていて気持ちがいい。彼らの曲は決してメロディーがキャッチーと言うわけではないが、ギターリフやドラムなど、演奏そのものを口三味線で再生することで得られる音楽総体としての快感がある。本作から参加の新ドラマー、トーマス・プリジェンのプレイも申し分ない。前任のジョン・セオドアに勝るとも劣らない叩きぶりだと思う。
 アートワークは前作に引き続きジェフ・ジョーダンという人の絵を使用しているが、宗教画的なモチーフが多い。歌詞や曲のタイトルも同様である(「ゴリアテ」「メタトロン」など)。これが本作の大きなキーだと思う。本作が何がしかの宗教をベースにした内容であるとは思わないが、むしろ彼らのサウンドに対する意思そのものがひとつの「信仰」のようなものだと言えるのかもしれない。そのくらい、明確な意思と方向性を持ってこの音は鳴らされているような気がするのだ。前作ほどグロテスクな表現は多くないが、そのテーマはやはり難解で、重く暗い。人間と言う存在の原罪を探るような、そしてそれを絶望的な現在の世界に映し出すようなヘヴィーさがある。しかし、このアルバムにはその重さを払いのけるほどの疾走感と爽快感がある。力ずくで目の前の霧を晴らすかのようなパワフルなサウンド。まさしくロックである。相変わらず、ロックの本質をつかみつつ、さらに知的好奇心を刺激しその最先端を押し広げようというアルバム。感服いたしました。