世界は暴力に満ちて。
■ノー・カントリー No Country for Old Men
■監督:ジョエル&イーサン・コーエン 出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン
ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- 発売日: 2008/08/08
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ふとしたことから麻薬組織の金をネコババしようとする男(ジョシュ・ブローリン)と、彼を始末するために雇われた殺し屋(ハビエル・バルデム)、そして保安官(トミー・リー・ジョーンズ)の3人の男がドラマの主役。殺し屋を演じるバルデムは素晴らしい存在感で、全く躊躇なく人を殺してゆく冷徹な殺し屋アントン・シガーを見事に演じている。アントン・シガーは組織の金を奪った男を始末するために追いかけるが、その途中で何の関係もない人間をも殺してゆく。しかもその生死はコイントスで決められる。そして彼の中にはその殺人に対して快感を得るふうでもなく、淡々と作業してゆくのだ。殺される側はたまったものではないが、突然訪れる理不尽な死の象徴としてアントン・シガーという男は描かれている。言うなれば彼の存在そのものがテロのようなものなのである。自分の守るべき町が突然、シガーという絶対悪の恐怖にさらされ、最悪の事態を回避できなかったことでジョーンズ演じる保安官は暴力に支配されるこの世を嘆き、平和だった昔を懐かしむ。「この国は老人の住む場所ではない」と。観客が感情移入し応援したくなる登場人物はあっけなく死に、理不尽な暴力は結局捕まらないまま映画は終わる。言いようのない徒労感と絶望感が支配する重苦しい映画。
ジョーンズが「この国は変わった」と嘆く「この国」とは、当然、アメリカのことである。保安官を辞めようというジョーンズに対し、叔父は「昔からこの国では暴力がはびこっていた。今に始まったことじゃない。」と諭すが、この辺のやり取りにコーエン兄弟のアメリカと言う国に対する思いが見え隠れしているような気がする。見終わってもかなり重い気分になる映画だし、映画館から帰ってテレビのニュースを見ても世の中が映画以上に平和で理想的な世界ではないことが分かってしまってまた凹む。そんな作品。あとから聞いて気づいたのだけど、本編が始まったらエンドクレジットまで音楽というのが全くバックに流れない作品だった。それが最も効果的な演出だった、という感じもする。