無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

魔法を信じるかい?

キラキラ!

キラキラ!

 ソロになってからの曽我部恵一はライヴのとき本当に楽しそうに見える。決してサニーデイ時代が楽しくなさそうだったと言うのではなく、ギターを始めて持った中学生のように、音を出し大声で歌う喜びを実にストレートに表に出していると思う。レコーディングでもライヴでも一緒にやってきた旧知のメンバーだが、「曽我部恵一BAND」としてのファースト・アルバム。これは、いい。1回聞いて分かってしまった。曽我部恵一は、ソロになってからずっとこういう音を出したかったに違いない。もっと言えば、サニーデイのときからそうだったのかもしれない。ソロでも『STRAWBERRY』や『LOVE LETTER』あたりの音はざっくりとしたロックを志向していたが、ここまで突き抜けてはいなかった。ようやく、できたのだ。下手でも、フレーズ間違っていても、音を外しても、その瞬間をきちんと捉えていれば何も問題ない。そんな確信に満ちた全12曲35分。最高のロックンロールが詰まっている。
 歌詞はどれも日常の風景とそれに対する素直な心象を綴ったようなものだが、曽我部らしい詩的なロマンやちょっとファンタジックなスパイスが効いている。全くと言っていいほどてらいがなく、真っ直ぐに鳴らされている。そう鳴らされなければいけない曲ばかりが収められている。本作での曽我部のボーカルはかすれまくっている。そういう風に歌わなければいけない曲ばかりだからだ。そうすることでカッコよくなる曲ばかりだからだ。「魔法のバスに乗って」も、このバンド編成で曽我部がラップやるってどうよ?っていう曲なんだけど、これ以外に正解がないだろうというくらい完璧なポップソングになっている。このアルバムの音はほころびだらけだけれども、だからこそタイトル通りキラキラと輝いている。文字通り、魔法がかかったかのようなアルバムだ。
 遅く来た青春?いや、青春に遅いも何もない。曽我部は今が青春真っ只中である。サニーデイの名曲「青春狂走曲」のカバーは、あの当時よりもむしろリアルに聞こえる。曽我部恵一は僕と同級生である。まいったねえ、どうも。