無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

3分で世界は変わる。

ワールド ワールド ワールド

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 オリジナルとしては実に2年ぶりとなるアジカンの4作目。昨年NANO-MUGEN FESも休止しレコーディングに集中していただけあって気合の入った内容。前作『ファンクラブ』は今聞くとかなり重い内容で、まだ自我が確立されていない若者に対して、どうやってこの世界とコミットしていくのかということを歌いかけるようなテーマが流れていたように思う。その対象となる若者とはもちろん、過去の後藤正文自身も含んでいたわけだが、しかしその内容がどこまで彼らのファンに浸透したかはかなり微妙で、ライヴでのリアクションなどからもそれは見て取れた(明らかに、ステージ上のバンドとファンの温度が違っているケースがあった)*1 *2
 今作でも基本的にそのテーマは失われていない。しかし、1人称の物語だけではなく、客観的なストーリーを用い、また現実の世界に対する彼らの現状認識(かなり暗いが)を交えることで、非常に外側に開かれた印象を与える作品になっている。全13曲44分というコンパクトさもきちんと通して聞いてもらうことを意図してのものだろう。アルバムタイトルや曲名にある「ワールド」「世界」にはいろいろな意味が込められているのだろうが、基本的には自分の内面の世界と外の現実世界の対比がそのテーマになっていると思う。特に「転がる岩〜」から終曲「新しい世界」の流れはいい。「転がる岩」とは当然、彼ら自身が魅せられたロックンロールそのものを指している。それによっていかに自分の世界の変化が起き、殻を破って外の世界に走り始めたのか。それによって目の前の世界がどう塗り替えられたのかを非常にストレートに歌っている。「出来れば世界を僕は塗り替えたい/戦争をなくすような大逸れたことじゃない/だけどちょっとそれもあるよな」というフレーズは決して大言壮語ではなく、そのくらいドラスティックな変化がかつて自分自身に起きたのだ、という実体験から出て来るものだ。その上で叫ばれる終曲の「新しい世界」という言葉にはかつてない確信と説得力が宿っている。そして、アルバムが一回りし、また最初から聞き始めると聞こえてくるのは「僕らはまだ何もしていない」なのだ。だからまた、殻を破るために、目の前の景色を塗り替えるために何度でももがくのだ。ロックというのはそういうものだ。
 アジカンは彼らがロックから受け取ったものを、生真面目に還元してファンやリスナーに返そうとしている。いわばロックの食物連鎖。言うは簡単だが、それは壮大な野望だと思う。しかしこのアルバムで彼らはその一端に触れることは出来たんじゃないかと思う。

*1:id:magro:20060803

*2:id:magro:20061212 06年12月9日@横浜アリーナ