無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ちょっとだけ特別なこと。

曽我部恵一BAND TOUR 2008 キラキラ!
■2008/05/31@ベッシーホール
 新作がとにかく良かったし、昨年のライジングサンでの大トリも記憶に新しい曽我部恵一BAND。ベッシーホールは後ろの階段まで人がぎっしりの超満員状態。ステージに登場した4人はまず円陣を組んで気合を入れる。1曲目は「恋人たちのロック」、そして「トーキョー・ストーリー」と続く。キャッチーなメロディーと疾走感溢れるアンサンブル。小気味いいギターのカッティングもカッコイイ。新作からの曲は全て演奏されていたが、そのどれもがアルバムで聞くよりもさらにリアルに、切実なものとして迫ってきていた。演奏している本人たちが客の誰よりも楽しそうでそれを見ているだけで自然とこちらも頬がゆるんできてしまうのだけど、それと同じくらい、胸が締め付けられるような気持ちにもなったりするのだ。曽我部はそのバンドの中でも最も楽しそうだ。「ジュークボックス・ブルース」ではアカペラで会場中に(つっても、狭いとこだけど)その声を響かせ、「テレフォン・ラブ」の前にはちょっといい雰囲気の都会のラブ・ストーリーを語りだす(そして最後はグダグダになる)。MCではどうしよう、本当に楽しい、嬉しいみたいなことばかり言っていたように思う。『キラキラ!』はチャート的にも最近の曽我部にしてはいいアクションだったようだ。売り上げとかそういうのには興味が無いとは言いつつも、オリコンに入るのはそれはそれで嬉しいのだと言う。通販で来たオーダーには曽我部自身が封筒に商品を詰めて発送するらしいが、そういうことを話す口調にも本当に今時分がやりたいことをやっているという充実感がにじみ出てくるのである。
 そして「ハルコROCK」や「チワワちゃん」のように曽我部家の日常をスケッチしたような楽曲(全部実話らしい)にはほのぼのとしたささやかな幸福感がよく現れている。それはロックとしてどうなんだ、ヌルいんじゃないのか、という向きもあろうが、僕はそうは思わない。正直思ってたこともあるけど、今の曽我部を見ているとそれは全然問題じゃない。些細な日常の出来事をそのまま描きながら、それが極上のポップソングとして目の前の風景を塗り替えてしまう。そんなロックの持つマジックが確実に存在しているからだ。特別な出来事なんかなくてもいいのだ。でも少なくとも、今目の前で素晴らしいバンドが素晴らしいライヴをしていること、それはちょっとだけ特別なことなんだ。そんな確信が彼らのステージにはある。曽我部恵一BANDは、そんな「日常とちょっと特別なこと」の隙間を埋めるように音を鳴らしていく。
 過去の代表曲はもちろん、サニーデイ・サービスのレパートリーからも演奏。僕が『LOVE ALBUM』発表後のライヴを見ないままサニーデイは解散してしまったので、「胸いっぱい」をやってくれたのは嬉しかった。アンコールでは「恋におちたら」も披露。「STARS」で全て出し切って引っ込んだ後もアンコールの拍手は鳴り止まない。再度出てきた彼らは、曽我部のソロアカペラのみで「mellow mind」を歌った。残念だけど、今日はこれでおしまい。おやすみ。そんな感じ。この日の深夜0時にオフィシャルでも発表になったのだが、その数時間前に再びライジングサンに出演することもフライング発表した。大きな拍手と歓声。3度目のアンコールはなかったが、それを待ち望む拍手と声は結構長い時間続いていた。決して大きいハコではない会場だけど、ここに集まった人は皆本当に曽我部の曲が好きなんだと思った。そして、そんな状況が札幌だけでなく日本全国にあるんだろう。素晴らしいことだと思う。

■SET LIST
1.恋人たちのロック
2.トーキョー・ストーリー
3.天使
4.結婚しよう
5.キラキラ!
6.海の向こうで
7.海とオートバイ
8.5月になると彼女は
9.有名になりたい
10.ジュークボックス・ブルース
11.ハルコROCK
12.チワワちゃん
13.テレフォン・ラブ
14.街角のうた
15.まちぼうけ
16.夢見るように眠りたい
17.シモーヌ
18.あたらしいうた
19.胸いっぱい
20.瞬間と永遠
21.LOVE-SICK
22.青春狂走曲
23.魔法のバスに乗って
<アンコール1>
24.恋におちたら
25.STARS
<アンコール2>
26.mellow mind