無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

冷静な研究者と便利な発電所

LIFE(初回生産限定盤)

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 ACIDMANの通算6作目。前作もメロディの良さとサウンドのキレがひとつ抜けた印象だったが、本作でもその方向は更に進化していて非常に聞きやすくなっている。かと言って決して角が取れたとかいう風でもない。正直言えば、過去にも似たようなメロディやコード進行があったと思わせる曲もあるが、きちんとアルバム全体が現在進行形になっているのでさほど気にならない。揺るぎないACIDMAN節とでも言うべきサウンドと曲調がすでにがっちりと確立しているということかもしれない。
 『創』『LOOP』『equal』のメジャーデビュー後のアルバムを3部作と捉えるなら、『and world』『green chord』そしてこの『LIFE』というアルバムも、3部作として括ることが出来ると思う。徹底的に自己の内側を追求した最初の3部作に対し、新3部作はその自己と生命を生み出した世界、宇宙の神秘を辿る旅とでも言うべき壮大な内容になっている。『and world』ではそのテーマの大きさを扱いきれていなかった印象もあったが、前作そして本作にかけてはしっかりとフォーカスが絞られているように思う。正直、『and world』というアルバムは個人的に最も聞き返さないアルバムだったのだけど、今回のツアーのセットリストに『and world』からの曲がそれなりに入っているのはやはり本作に続くスタートラインとしてきちんと昇華させたいという思いがあったのかもしれない。と、勝手に考えたりした。本作はタイトル通り「生命」をテーマとしたもので、その始まりと終わり、そしてどんな生命でも尊く輝くべき光なのだ、と最終的には希望をもって完結する物語になっている。「式日」や「FREE STAR」など、きらきらとしたポップな曲が多いのはそのテーマを現したものだろう。それが本作の聞きやすさにもつながっている。
 こういう科学的かつ哲学的で壮大なコンセプトをメジャーシーンで展開するロックバンドは日本では珍しい。そしてACIDMANはデビュー以来ずっといそういう道を歩んできている。それはかなり困難な道のりだったと思うし、その中で一定のセールスや動員を上げ続けて来た事は賞賛に値することだとも思う。このアルバムも非常にいい作品だと思うのだけど、どこか箱庭的というか、自分たちの手のひらのフィールドだけで満足している感も見えてしまう。日本人的というのか、どこかおとなしい感じがしなくもない(サウンドの印象ではなく)。例えばイギリスのバンドだけどミューズなんかだったら宇宙を表現しようと思ったら自分たちが宇宙になってしまうくらいのビッグバンっぷりをどうにかして表現しようとするだろう。そういう、パラノイア的な倒錯感がACIDMANには薄い。基本、理性的でクールなのだ。それが悪いとは言わないが、どこかで限界は来るだろう(現に過去に1度来ているわけだし)。
 個人的にはどんなアーティストであれちょっとネジ外れてイッてしまった部分にロックっぽさを感じることが多いし、また、世の中の常識を覆して未開の荒野を開いてきたのはクールな研究者ではなくどっかイカレたマッド・サイエンティストだったのではないかとも思うのだ。彼らの新しい物語を楽しみにしたい。