無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

先に進むために。

Accelerate

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 R.E.M.3年半ぶりの新作。前作『アラウンド・ザ・サン』は彼らにとって2001.9.11以降初のアルバムだったということもあってかひどく内省的で暗く重い内容だった。静かなトーンの曲が多く、芸術性は高かったものの個人的には退屈な部類のアルバムで、正直何度も聞き返す気にはならないものだった。そんな前作の反動という単純なものではないのかもしれないが、本作はいきなり1曲目からピーター・バックのドライヴィング・ギターが疾走するパンキッシュなサウンドが軸になっている。全11曲、34分というコンパクトさ。その中で必要な音を全て鳴らし、言いたいことは全て言うという凝縮した内容。思い出したよ。R.E.M.ってロックンロールバンドだったんだ。
 R.E.M.に限ったことではなく、00年代のロック(特にアメリカの)はやはり9.11を抜きにしては語れないし、極端な話、あの事件以降一変した世界情勢の中でどう生きていくのか、ということを不可避のテーマとせざるを得ないものになってしまったのではないかと思う(もちろん、アーティストによってその程度は異なるが)。R.E.M.のように具体的な行動も起こしてきたアーティストはまさにそのテーマに飲み込まれ、その中からいかにして自らのロックを取り戻すのか、という戦いを強いられたのではないかと思う。ブルース・スプリングスティーンパール・ジャムが乗り越えたように、R.E.M.もこのアルバムでようやくその地点にたどり着いたのではないか、という気がした。「ミスター・リチャーズ」という曲はまんまブッシュ大統領を揶揄した曲だが、彼ららしいあまりおかしくないユーモアに溢れている。こういう曲を自然と歌えるようになったのが何よりの証拠ではないだろうか。ここからまた前に進んでいくのだ、という気合が見える。アルバムタイトルにもそれが現れているような気がする。
 最近のライヴのセットリストを見ると、前作の時のワールドツアーでは全くと言っていいほど演奏されなかった「世界が終わる日」をやっていたりする。そういうことなんだと思う。