無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

[RSR]RISING SUN ROCK FESTIVAL 2008 in EZO(5)〜また、ここで逢いましょう。

■2008/08/16@石狩湾新港
 ZAZEN BOYSのあと、レッドスター側のレストランエリアで嫁と合流。嫁は毎年のごとくLOOPA NIGHT。LOSALIOSを聞きながらメシ。寒いので、温かい麺類やカレーなどに行列ができる。ムーンサーカスに移動し、ちょうど卓球のDJが始まったところだったのでちょっと踊る。しかし、1時を目処にムーンから最も離れたアーステントまで移動しなくてはならない。
 サカナクション。札幌出身の彼らは2006年、今年もあった「RISING STAR」という、若手バンドのためのオーディション枠でライジングサンの初ステージを踏んだ。それから2年、堂々の凱旋である。今年4月から活動の拠点も東京に移し、完全に札幌から引っ越したらしい彼らにとっては久々の帰省ということになるだろう。アーステントに集まったのは道産子ばかりではないだろうが、彼らが姿を現した途端「お帰りー」などの声がかかったのを見ると素直にうれしくなる。ここが彼らのホームタウンなのだ。「インナーワールド」で始まったライヴは、次の「三日月サンセット」そして「サンプル」であっという間にピークを迎える。イントロが始まった瞬間歓声が起き、その熱は最後まで冷めることはなかった。「サンプル」のサビでは一気にその熱が開放されるようなカタルシス。アーステントはレイブフロアと化し、満員の観客は踊り狂った。ブログでも予告されていた通り、このライジングサンで初めて新曲を披露した。新曲をやるのは地元からと決めていたようだ。札幌が、ライジングサンが彼らにとって特別な場所であることを改めて実感する。新曲は基本内省なトーンのサカナクションのイメージからちょっと離れたポップで明るいもの。簡単に言うとわかりやすいシングル向けの曲。「夜の東側」のあと「白波トップウォーター」へ。この曲のイントロのシンセを聞くとすごく切ない気分になる。『ナイトフィッシング』がそういうアルバムであったのは確かだが、サカナクションの曲はその多くが「夜、ひとりで」ものを考えるところから生まれてきているような気がする。ラストは山口一郎が「札幌で最後に作った曲」という、「ナイトフィッシングイズグッド」。この奇妙なポップ・オペラもまたそういう曲だと思う。「合唱、みんな歌ってくれる?難しいけど」確かにこれは難しい(笑)。しかし、最後の最後までこのウェルカムモードの中それに甘えることなく、自分たちの現時点でのマックスをやり切ったという熱のこもったライヴだった。鮭が海へ出てまた故郷の川へ戻るように、石狩の地へと戻ってきたサカナクション。この日のステージは、飛躍を遂げた今年の彼らの活動の中でも大きなエポックと言っていいのじゃないだろうか。

サカナクション SET LIST
1.インナーワールド
2.三日月サンセット
3.サンプル
4.マレーシア32
5.(新曲)
6.夜の東側
7.白波トップウォーター
8.ナイトフィッシングイズグッド


 そのままサンステージに移動。8年ぶりの再結成、サニーデイサービス。1999年のライジングサン第1回目で朝日の中トリをつとめたサニーデイが10回目の今年再結成するというのはなかなか良くできたドラマだが、曽我部恵一の日記などを見るとそれだけが理由というわけでもなく、なんとなくまた一緒に演奏しようという感じらしい。継続して活動するというわけでもないようだし、ある種スペシャルなステージになるのかもしれない。それでなくとも、自分の20代後半に遅れてきた思春期を共にどっぷり過ごしたバンドだけに、絶対に見ておかなくてはと思った。サポートに高野勲(key)、新井仁(g)を加えた5人は昔のままと言ってもいいようなたたずまい。曽我部がギターを弾き語り、バンドの音が乗っかる。ドラムの音がバン、と来た瞬間にああ、サニーデイだと思う。「baby blue」で静かにライヴは始まった。ちょっと風が強く肌寒い気温だったが、曽我部はTシャツに半ズボンという軽装。「気持ちいいねえ!」を連発していた。目を閉じて聞いているとタイムスリップしたかのような錯覚すら感じる。「恋に落ちたら」はソカバンでもカバーされることがあるが、やはりこの編成で歌われると全くその印象は違う。曽我部の歌声もソカバンの時のようにラフではなく、繊細に、慎重に美しいメロディーを丁寧になぞっていく。8年たって成長した自分たちが今またサニーデイの曲をやります、ではなく、当時のままのサニーデイをここに再現します、という確固とした意思のある演奏だったように思う。集まった観客もほとんどが当時のサニーデイを期待して、ノスタルジーの中に浸りたいという欲求を持っていたと思うのだけど、その期待には間違いなく応えていただろう。「ここで逢いましょう」のへヴィーな演奏も、現在のソカバンとは違う内省の熱情を見事に再現していた。ここがクライマックスかと思いきや、個人的には続く「白い恋人」そして「週末」があまりにも美しすぎて泣いてしまった。とどめは「サマーソルジャー」。昨年もソカバンで演奏していたが、「サニーデイ」という看板の下で歌われると、やはり違う意味がそこに宿るような気がする。かつて自分の中にあった、そして今も残っているであろう「中途半端な時期の逡巡」みたいなものがむくむくと甦ってくる。言葉を尽くしても足りないが、このステージを見ていた僕と同世代の人たちは、皆気持ちよくあの頃に戻っていたんじゃないだろうか。あまりにも完璧にあの時代のサニーデイを再現してみせたこのステージ。もし、リアルタイムで彼らを知らない人が見ていたらどう思ったのだろう。「こんなものか」と思ったかもしれないし、「やっぱりすごいバンドだったんだ」と思ったかもしれない。それはどちらも間違いじゃない。でも、当時を知っている人にとってはとても特別な時間だったと思う。各々の記憶の中にこそ、この日の演奏の本質は眠っていたように思う。ラストはアンコール的に、3人だけで「コーヒーと恋愛」を演奏。なんか、曽我部も丸山も田中も楽しそうで微笑ましかった。曽我部恵一が自身の日記でこの日のステージのことを完璧に表現している。サニーデイとはこういうものだ、ということを彼は本当によくわかった上でこの再結成ライヴを行ったのだと思う。

サニーデイサービス SET LIST
1.baby blue
2.恋におちたら
3.NOW
4.月光荘
5.旅の手帖
6.ここで逢いましょう
7.白い恋人
8.週末
9.サマーソルジャー
10.コーヒーと恋愛


 東の空がだんだん明るくなってきている。今年の最後はサンステージでスカパラ、もいいと思ったけど、テントの始末を早くしてしまいたいのでムーンサーカスでLOOPAのラストに立ち会うことにした。その前にメシを買おうと思って店に立ち寄ると、サカナクションの時に僕の隣にいたという店員さんに声をかけられた。屋台の人ってライブ見に行ったりしてるんだ。ムーンサーカスは締めの時間帯に入り、出演DJが交代で回すセッションプレイが始まった。卓球もKAGAMI田中フミヤも自分の出番が終わると後ろに引っ込むのだけど、TOBYだけはずっとステージの上にいて楽しそうにニコニコとしている。客に手を振ったり、挙句にはステージから降りてPAテントの方に歩き出し、踊っている人たちとハイタッチ。一番楽しんでるな、この人。そしてパッと見はどう見てもその辺のオッチャンなんだけどな。一晩中鳴り続けた音楽が止み、アンコールの拍手も起こるが、残念ながらここで終了。僕にとっても10回目のライジングサンは朝日の中静かに終わった。

 フェスに来るととにかく食べる。1日5、6食は食べるような気がする。なんでこんなに腹が減るのかと思う。今使っている携帯には歩数計がついているので、ライジングサンの間の歩数を調べてみると、約9万7千歩。距離にして90km以上。ライヴで飛び跳ねたりする時にもカウントされているので実際はそんなに歩いてないと思いますが、体力を使っているという点ではあまり変わらないかも。そりゃ腹も減るわけですな。今年でで10回目。来年は10周年。また1年が待ち遠しいけど、来年も楽しみにしてます。参加した皆さんおつかれさまでした!