無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

迷わない季節。

popdod(初回生産限定盤)(DVD付)

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 約1年ぶりのビークル新作。何名かのゲストミュージシャン参加はあるものの、前作のように他バンドとのコラボシングルなどがあるわけではないので、より生のビークルで勝負した、と言うような気合の入ったアルバムになっている。
 ヒダカトオルという人はメジャーデビューしてからも「ミュージシャンがダメになったらいつでもサラリーマンに戻る」みたいな発言をするなど、真意はともかくとしてもビークルの活動やスタンスとして常に逃げ道を確保しているような印象があった。「や、自分そんな大層なモンじゃないっすから」的に自らの能力を卑下し照れ隠しとしてピエロを装っている感すらある。わからなくもない。彼は自分より若干年上だが、1980年代に多感な思春期を過ごした人間というのはどこか世の中に対してシニカルに斜めからものを見るような部分があるのだ。物事に対して真っ直ぐに向かい合い熱くなるということを無意識的に避ける、あるいは自分がそうなっていることを隠すことがあるのだ。そういうのはダサい、という価値観を青春時代に植えつけられているからだ。本作は、ヒダカトオルという人が音楽に、そして自分の努力や才能に初めて真正面から向き合ってストレートに曲を書き作ったアルバムと言えると思う。もちろん今までも真正面から向き合ってきたのかもしれないが、のらりくらりと本気と見せることなくやってきた印象のあるビークルが、本作では包み隠さずその熱を表現しているという気がする。曲は相変わらずポップでエモでシンプルで、つまりはビークル印満載のアルバムなのだけど、これまでの彼らなら「SUMMEREND」みたいなどっしりとした重厚な曲をエモーショナルに表現することは無かったのではないか。個人的にはこの曲が本作の一番のキモであり、感動的な部分だと思う。
 ヒダカトオルは今年40歳になったわけだけど、ちょっと前にその大台を迎えたアーティストたち−例えば奥田民生宮本浩次吉井和哉など−が、皆その時期にこれまでのキャリアとしっかりと向き合い、過去を肯定した上で抜けのいい作品を発表しているというのが非常に興味深い。やっぱり年齢的に何かあるのだろうか。あるんだろうな。惑わなくなる何かが。