無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

人間の証明。

Viva La Vida Or Death & All His Friends

Viva La Vida Or Death & All His Friends

 コールドプレイの前作『X&Y』は、あまりにも完璧なアレンジと構成を追い求めた結果エンターテインメント性、あるいはロックとしての快感をスポイルしてしまったような感覚が個人的にはあった(id:magro:20051110)。しかし、この3年ぶりの新作はそれとは全く違う感触のアルバムとなっていた。クリス・マーティンのピアノはサウンドの中心というよりはアレンジの一要素として処理され、むしろ今までの彼らの作品よりもギターの比重が高い。エレクトロ、ストリングスなども大胆に導入したサウンドはどこに進んで行くのかわからない獰猛さを持ち、複数のメロディーが無理矢理1曲に集約されたような複雑な構成の楽曲もそれに拍車をかける。要は、今までのコールドプレイのアルバムに感じられたクールさや丹精さから180度反転したいい意味でタガの外れたアルバムになっている。
 タイトルからして「Viva la Vida(人生万歳)」と「Death And All His Friends(死とその友たち)」という、相反する意味の言葉を並列したものになっている。矛盾した、相反するものが同時に存在すること。喜びと哀しみ、生と死、愛と憎しみ。何でもいいがこの世のすべてはそうした組み合わせで成り立っているのであり、人間の感情もまたそういうものである。彼らが本作で描きたかったのはそういうことではないのだろうか。結果、このアルバムはコールドプレイ史上最も人間くさく、矛盾に満ちた、だからこそ素晴らしい作品になっている。表題曲のひとつ、「Viva La Vida」の湧き上がるような高揚感はどうだろう。キレのいいストリングスとクリスのヴォーカル、サビで万感の思いを炸裂させるメロディー、どれをとっても感動的だ。もうひとつの表題曲、ラストの「Death And All His Friends」のラストでは、1曲目の「Life In Technicolor」のオープニングがリプライズされる。人生の両極を描き、そしてひとつの円環(輪廻と言ってもいいか)を成すというありがちではあるが、よくできた構成になっている。アルバム通して一つのコンセプトに貫かれた内容になっているし、それゆえに決してシングルライクなアルバムではない。今や2000年代で最も成功したUKバンドとなった彼らからすればこのアルバムは大きなチャレンジと言ってもいいと思う。
 個人的にはコールドプレイのこれまでのアルバムの中では最も好きだし、よく聞いている。前述のようにこのアルバムからは生身の人間の葛藤や息づかいが生々しく聞こえてくるからだ。世界で最も売れているバンドがこういうアルバムを発表することには大きな意味があると思う。