無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

帰ってきた「音楽」の息子たち。

STRENGTH IN NUMBERS

STRENGTH IN NUMBERS

 ザ・ミュージック、実に4年ぶりの復活。と言って、どれだけの人が盛り上がったのだろう。僕も確かに彼らのデビュー時にはとんでもない新人が出てきたと思って興奮したものだが、当時はまだUKロック冬の時代。リバティーンズがその地図を塗り替えてしまって以降、今に至るまでUK新人バンドはうようよと出てきて毎月のように新しい名前を聞くほどだ。そんな中で4年間もの不在が彼らの名前を忘れさせてしまったとしても致し方ないことだろう。この新作のニュースを聞いて「まだいたんだ?」と思ってしまった人は僕を含め少なくないと思う。
 実際、この空白の期間に彼らは解散を考えたそうだ。ボーカルのロブはアルコール中毒うつ病も患ったという。レコード契約も失い、ゼロからの再出発を余儀なくされた彼らにとって今作までの道のりは想像を絶する困難だったに違いない。そんなどん底を味わったからこそ、彼らは強くなった。このアルバムには全く迷いの無い、シンプルで力強い音が鳴っている。4人のセッションから自然発生的にグルーヴを紡ぎ上げる以前の作曲法を止め、今作の曲はロブとギターのアダムの2人でアレンジまでほぼ完成したデモを作っていったそうだ。その結果、前述のように何が生まれるかわからない異形のグルーヴは影を潜め、Aメロ、ブリッジ、サビと構成のはっきりしたシンプルな楽曲に生まれ変わっている。打ち込みのリズムを中心にかっちりとしたグルーヴは時代性を備えたダンサブルなもの。メロディーもかなり練られているし、単なる復活にとどまらない力作になっていると思う。
 どん底を知るからこそ希望や光を鳴らせる。と僕は思うのだけど、今作の曲の内容はかなりへヴィーで、その底の時期の彼らの逡巡やそこから抜け出そうという固い決意のようなものが透けて見えるようだ。しかしこうして充実したアルバムを持って戻ってきたこと自体が大きな希望であると思う。大きな回り道をしたとは言え、まだ彼らは20代半ば。アメリカ進出を狙って失敗した前作もこの4年間も、決して無駄ではなかったと、このアルバムを聞いていると思いたくなってくる。