無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

時代を斬る。

Modern Guilt

Modern Guilt

 前作『ザ・インフォメーション』から約2年ぶりとなるベックの新作。前作が非常に音数の多い、情報量の詰まったアルバム(全18曲もあったし)だったのに対し、今作は全10曲、33分半という非常にコンパクトなアルバムになっている。しかしその中でピンポイントに音も言葉も焦点がしぼられている印象を受ける。
 サウンドはベック自身のアコースティックギターにデンジャー・マウスによる先鋭的なビートが絡むという、シンプルながらも刺激的なもの。どこか古臭くもあり、それでいて新しい。音の情報量は決して多くはないがこのビートはいい。個人的に好きだ。ナールズ・バークレイはちゃんと聞いたことがないのだけど、ゴリラズでの彼の仕事を見る限りヒップホップの文法を用いながらも歌モノにもダンスにも適応できる柔軟性を持ったサウンド作りができる人みたいだ。ベックの持つトラディショナルなフォークやブルースのルーツとも意外に相性はいいのかもしれない。
 『ザ・インフォメーション』というアルバムが情報過多な現代社会に対する警鐘を孕んだものだったとするならば、今作はそんな時代に生きる我々の心のあり方をテーマにしているといえる。つまり、人間の本質的なところをさらに掘り下げている。それをベックは「現代の罪」と題している。彼の目に見える社会の闇は我々が考える以上に深く暗いのかもしれない。そんなシリアスな視点をテーマにしているために、今作の歌詞には言葉遊び的な余裕やユーモアに欠けている面があるのは否めない。しかし、その分時代を切り取る批評性を持った詩人としてのベックは非常に冴えていると思う。