無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

憎悪・イズ・ゴーン。

All Hope Is Gone

All Hope Is Gone

 スリップノットの約4年ぶりとなる新作。前作『VOL.3』制作時には解散までいくかもしれないほどバンド内での不協和音があり、人間関係も非常に緊張していたということが伝えられていた。だが、それを乗り越えて前作を発表したことでバンド内の緊張は解かれたようだ。前作からの4年間も各メンバーがソロ活動などを行っていたが、バンドとして疎遠ではなかったようだ。
 前作では激しいサウンドとデス声というイメージを一新するようなメロディアスな楽曲が新機軸を打ち出していたが、本作もその流れを一層加速させたものになっている。ほぼ全曲、サビではきちんとメロディーが歌われ文字通りの「コーラス」パートとなっている。「スナッフ」なんかはアコースティックギターの弾き語りから始まる曲で、これまでのスリップノットでは最もセンチメンタルな雰囲気を持つ名曲だ。しかし、メロディーが際立ち聞きやすい楽曲が増えた分、『アイオワ』を頂点とするヘヴィーさが後退したように聞こえる感も否めない。かつてのスリップノットは周囲や世界に対する「NO」、怒りと憎悪をサウンドにそのまま落とし込んだような異形なグルーヴとヘヴィネスが身上だったと思うのだが、今作に至っては「普通にいい曲を書くヘヴィーロックバンド」という印象だ。
 誤解しないでほしいのだけど、このアルバムは非常にいいと思う。完成度が高いし、曲もいい。個人的にはスリップノットのアルバムの中で最もリピートして聞いたと思う。しかし、以前のことを考えるとこれは本当にスリップノットと言っていいのか?と思うほど味付けがマイルドなのだ。世間一般の平均からすれば十分ヘヴィーなサウンドなのだろうけど、こういうところに若干の物足りなさを覚えてしまうのは無いものねだりの贅沢なのだろうか。バンドが成長したということで納得していいのだろうか。僕はでもやっぱり「ピープル=シット」とか、スピーカーから憤怒と憎悪が流れ出てくるようなサウンドも好きだったんだよな。もちろんあればっかり聞いていたら疲れてしまうのだけど、あの過剰さこそがスリップノットを唯一無比のバンドにしていたものだと思うのだ。