無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

振り返ればアジカンがいる。

ASIAN KUNG-FU GENERATION  TOUR 酔杯 2008〜THE FINAL〜
■2008/11/25@Zepp Sapporo
 まず、前座に出てきたのはavengers in sci-fiというバンド。ステージ入りのSEはストーン・ローゼズ"I wanna be adored"。アジカンとは同郷ということもあって今回の共演となったようだ。ギター・ベース・ドラムの3ピース。ギターとベースがキーボードも兼ねていて3人とは思えない複雑な音像を出すバンド。ドーパンとナンバガが意気投合してハイスタやってますみたいな音。それなりにおもしろい。出番終わった後セットチェンジの時に自分たちの機材出しを手伝っていた(そして大きな拍手をもらっていた)のが微笑ましい。

 約30分のセットチェンジの後、アジカンアジカンの入りSEはやはりストーン・ローゼズ"Driving South"。狙ったのかな?アジカン秋冬のツアーは年内の「酔杯」と年明け北海道から始まる「ワールドワールドワールド」の2本になっている。この日のMCでは来年のツアーはホールツアーなので、椅子席の会場ということを意識したようなセットになると言っていた(アコースティックセットとかもあるかも?とのこと。)。じゃあ、この「酔杯」の方は、と言うと、逆に単に激しい曲中心と言うわけではないようだ。選曲を見ると、デビュー以来のアジカンを駆け足で振り返るようなものだったのだ。スタートこそ新作『サーフ ブンガク カマクラ』から「藤沢ルーザー」だったが、その後は『崩壊アンプリファー』の曲が続き、「フラッシュバック」から「未来の破片」、そして「サイレン」を挟んで「無限グライダー」と『君繋』の曲モードに。次は当然『ソルファ』からで、「ループ&ループ」に「君の町まで」、そして『ファンクラブ』の曲からちょっと順番入れ替わって『未だ見ぬ明日へ』『ワールドワールドワールド』と、きれいに色分けされていた。どういう基準で選択したのかはわからないが、ライヴで盛り上がる曲とかシングルだとかそういうことではなく、自分たちにとって大事な曲、彼らの活動のその時その時においてひとつの節目、キーになった曲が選ばれているような気がした。
 今年3枚のアルバムを発表したアジカンだが、『サーフ〜』の曲など今のアジカンのモードを全開にしたライヴは来年のツアーになるのじゃないだろうか。今回のセットはその前に今までの自分たちの足跡を振り返り、なぜここに至ることができたのかを再確認するためのものだったようにも見える。そのために必要な曲、「これが出来たから前に進んで来れたんだ」と言えるような曲がセレクトされていたように思う。最近のアジカンのライヴというのは「こういう思いを届けたい」「届いてほしい」「そのためにはもっとやらなければ」というような必死さや、思うようにいかない苛立ちや諦めのようなものも見えて、息苦しさを感じることもあった(その割に観客は黄色い声で腕を振っているだけだし)。しかしこの日の4人は非常にリラックスして演奏そのものを心から楽しんでいるように見えた。特にゴッチは、MCでもよく喋っていたし、気分よさそうだった。あんなにどうでもいいことをたくさん話して冗談を言うゴッチを初めて見たような気がする。「転がる岩〜」から「或る街〜」の流れはいい。すごく希望もあって、センチな気分にもなる。どちらの曲も単体でシングルで聞いたときと違う意味を持ち始めるような。これで本編終了。
 アンコールは『サーフ〜』からの曲から。このツアーでは日替わりでやっているらしい。来年のツアーでは全曲やるそうだ(それでも30分にしかならないとゴッチは笑っていた)。重たいメッセージ性から解き放たれてバンドの持つ思春期性や勢いをアジカンなりに真空パックしたこのアルバムは、すごくいい。演奏している4人もバンド少年のころに戻ったようで楽しそうだ。あとはもう文字通り、サービスとしてのアンコール。「君という花」で引っ込んでも客は全く帰る気配はなく2度目のアンコール。「Re:Re:」、「アンダースタンド」と人気のある曲を並べ、ラストは「海岸通り」。読み終わった本のページをゆっくり閉じるように、しっとりと幕を閉じた。昔からの曲をほぼ時系列で追った本編を聞いていると、バンドとしてのアジカンの成長が非常によく見えてきた。それを事も無げに演奏する4人にも頼もしさすら感じた。演奏の不安定さ(特にギター隊)が見られた初期の面影など微塵もない。今のアジカンの充実ぶりをよく表現していた、いいライヴだったと思う。1月のホールツアーも、行きます。

■SET LIST
1.藤沢ルーザー
2.遥か彼方
3.羅針盤
4.Hold Me Tight
5.フラッシュバック
6.未来の破片
7.サイレン
8.無限グライダー
9.ループ&ループ
10.君の町まで
11.ブラックアウト
12.ブルートレイン
13.月光
14.サイエンス・フィクション
15.惑星
16.転がる岩、君に朝が来る
17.或る街の群青
<アンコール1>
18.腰越クライベイビー
19.稲村ケ崎ジェーン
20.アフターダーク
21.君という花
<アンコール2>
22.Re:Re:
23.アンダースタンド
24.海岸通り