無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

サイケデリック後遺症。

Forth

Forth

 ザ・ヴァーヴ復活。実に11年ぶりのニュー・アルバム。このバンドが過去経験してきた紆余曲折の物語はとりあえず置いといて、まずはこうして新作を聞けることを素直に喜びたい。
 ブリット・ポップが終焉した焼け野原をあまりにも甘美に彩った1997年の傑作『アーバン・ヒムズ』から11年。しかし、この新作に「ビター・スウィート・シンフォニー」や「ソネット」のような叙情的なポップネスを期待しても無駄である。いや、無駄ということもないが、このアルバムでの再結成ザ・ヴァーヴは『アーバン・ヒムズ』での彼らではなく、『ストーム・イン・ヘヴン』や『ア・ノーザン・ソウル』でのサイケデリックな渦の中に聞き手を巻き込むようなザ・ヴァーヴなのだ。「シット・アンド・ワンダー」や「ナムネス」のように脳の奥底に染み込んでいくようなトリップ感が、本作の真髄だと思う。
 「ラヴ・イズ・ノイズ」の高揚感はむしろ本作では異質。「ノイズ・エピック」の目くるめくギター・サイケデリアはニック・マッケイブの真骨頂だろう。そう、前作がリチャード・アシュクロフトのアルバムだったとするならば、本作はニック・マッケイブのアルバムであると思う。ザ・ヴァーヴがザ・ヴァーヴであるためにフロントマンのマッド・リチャードと同等か、それ以上に必要なギタリスト。本当に素晴らしいプレイを聞かせてくれている。例えば、レッチリジョン・フルシアンテが必要なように、ヴァーヴにはニック・マッケイブが必要なのだ。
 1曲1曲が長いし、展開もわかりやすくないので一気に聞くとかなり疲れるアルバムではある。しかしそんな中「アイ・シー・ハウセズ」や「ヴァリウム・スカイズ」の美しいメロディーが聞こえてくると、まさにJacob's Ladderのごとく一筋の光に射抜かれるような気がする。決してサイケデリック一辺倒ではなく、きちんとポップさも押さえているバランスの取れたアルバムだと思う。というか、そもそもザ・ヴァーヴというのは眩暈がするようなサイケデリアをポップに響かせることのできるバンドだったのだ。それに改めて気づかせてくれるアルバム。再結成した意味もあるというものだろう(次があるのかどうかはわからないが・・・)。