無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

恐竜は死なず。

Dig Out Your Soul

Dig Out Your Soul

 『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』以来約3年半ぶりとなるオアシスの新作。発売前から収録曲・アルバムのタイトルやメンバーのコメントが虚実入り混じってメディアに出てくるなど、内容がどうあれその騒がれ方はまだまだオアシスだな、と思った。彼らクラスのバンドになるとこのくらいのスパンは当たり前だけど、今回はベスト盤を挟んでの新作となるわけでそれなりに一区切りつけた感のある内容になっているのかなと想像していたのだが、正直予想以上だった。
 ノエル・ギャラガーがインタビューでも話していたのを読んだのだけど、彼がメインでギターを弾いている楽曲は実は少ない。ギターと同じくらいオルガンやキーボードの比重が高く、より柔軟なサウンドになっている印象を受ける。以前のようにギターの音を幾重にも重ねたノイジーな音像は減り、よりサイケデリックな感触になっている。ただ、オルガンの音もかなり歪んだものになっているので一聴するとギターの音と判別がつかない場合も多い。ノエルのインタヴューを読んでギターだと思っていた音が実はオルガンだったと知ったものも少なくない。つまりどういうことかというと、聞いた印象以上に、バンドの中でのサウンド構築方法が一変しているということだ。これまで使っていない楽器を用いたり、各メンバーが違う楽器を演奏したり、アレンジやレコーディングの方法論そのものがオアシスの中で大きく変化していることは間違いない。
 曲については前作同様メンバー全員が持ち寄る形で、ノエルによる楽曲は半数程度である。「アイム・アウタ・タイム」をはじめ、ここでもリアムによる曲の出来はかなり良く、曲自体のバラツキは少なくなっている。ただ、以前のように「みんなのうた」としてシンガロング出来る曲は少ない。方向性として、今のオアシスが必ずしもそういった楽曲を求めていないのも明らかだ。90年代半ば、オアシスの楽曲が世界中で巻き起こしたマジックはすでに失われている。それを認識した上でメンバーも替え、作曲方法もレコーディング方法も変化させ、現代のオアシスとしてサウンドを刷新して提示していく姿勢と覚悟はすごいと思う。かつてのファンを失うかもしれない危険と隣りあわせなのだから。しかし、本作で到達したオアシスのサウンドは新鮮な驚きと興奮を与えてくれるのに十分だった。個人的には21世紀に入ってからのオアシスのアルバムの中で一番好きだ。
 オアシスのことを百年一日の演歌バンドとして揶揄する人間も多いが、オアシスが今作で成し遂げた「実験」を10年後に実行できる若いバンドが今どれほどいるだろう。あのリアムもアルコールを節制してかつての声を取り戻しているそうだ。そんな充実した中行われる来日公演が今から楽しみでならない(札幌にも来るんだぜ!)。