無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

青春デンデケデケデケ。

サーフ ブンガク カマクラ

サーフ ブンガク カマクラ

 ミニアルバムも含め、なんと2008年3作目となるアジカンのニュー・アルバム。本作は、これまでもシングルのカップリングで「湘南シリーズ」として収録してきた曲を含め、全10曲全てが江ノ島電鉄の駅名を冠したものになっている。ある意味で企画盤的な設定をもつアルバムなわけだが、これが非常にいい。今のアジカンのいい状態を顕著に現しているし、曲にもアレンジにも迷いがなくシンプル。アジカンがここまでロックンロールの真っ直ぐな衝動をストレートに表現したのも初めてと言っていいのじゃないだろうか。ほとんど一発録りじゃないかと思えるほどにざっくりとした勢いのある演奏。全10曲約30分という潔さも気持ちよい。肩の力は抜けているけど決していい加減じゃない。決められた設定と制限があるからこそ、その中で広がろうとしてこういう良作が生まれるのだ。
 歌詞はまだ社会に出ていない、あるいは出たばかりの若者の悶々とした(若干モラトリアム的な)心象をテーマとしていて、非常に青臭く青春している。それがかつての後藤青年の姿かというとそう言うわけではなく(そういう部分もあるだろうが)、第3者的な視点からショートストーリーを紡ぐように描かれている。『ワールド ワールド ワールド』や『未だ見ぬ明日に』では目の前の世界を塗り替えるほどのドラスティックな変化を喚起させる音楽への信頼と自信と決意をはっきりと示したアジカンだが、ここで描かれるのはそこに至る遥か前、目の前の世界が塗り変わってほしいと願うだけの、若き日の青春のひとコマである。どの曲も情感豊かで目の前に映像が浮かぶようなものばかりだ。こうした風景が描けるのも、これから先のアジカンがどこを目指しているのかが彼らの中ではっきりとしているからだろう。
 僕は鎌倉には行ったことがないけれど、このアルバムを聞きながら江ノ電に乗るのもなかなかいいものじゃないのかなと想像する。個人的に最も気に入ってるのは「稲村ヶ崎ジェーン」。思わず顔がにやけてしまうほどにロックンロール。