無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

電気は続くよどこまでも。

YELLOW(初回生産限定盤)(DVD付)

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 8年ぶりのアルバム『J-POP』のあと、わずか半年でリリースされた電気グルーヴの新作。8年ぶりに電気がアルバムを出す!と思い切り盛り上がっていたのがアホらしく思えるくらいあっさりと出てしまって実に拍子抜けだ。何かもう、聞くほうも「えー、また出したの?うーん、じゃあ時間あるときに聞くからそこ置いといて」くらいのゆるゆるテンションである。しかし本作を聞くとやっぱり前作は8年ぶりということもあって本人たちもどこか意識して「電気グルーヴ」としてのアルバムを作ろうとしていたのだろうなという感じがする。本作はそういう意味で、すでに動き出した電気としての流れに乗っかって素直にやっているように見える。良くも悪くも非常に力が抜けているのだ。
 瀧をフィーチャーした歌ものは少なく、NHK番組の主題歌「さんぷんまるのうた」、「Mole〜モグラ獣人の告白」、「どんだけ the ジャイアント」、「ア・キ・メ・フ・ラ・イ」くらい。アルバム後半は80年代後半〜90年代頭のハウス/レイヴシーンを思わせるトラックが満載で聞いていて気持ちがいい。この辺のスタイルも素の彼らが出ているのかなという気はする。たった半年で出ているので「余りトラックをやっつけでまとめて出したんじゃないの?」と思われそうだし、インストが多いので印象としても電気としては薄く感じられるかもしれないが、音のバキバキ感は実に電気だし、個人的には『オレンジ』から気合を抜いて作ったような感触もあると思う。また、電気グルーヴという存在自体が日本のシーンの中では別格として扱われている部分もあると思うのだけど、こういうアルバムを軽く出すとそういう周りの視点が若干リセットされるような気がしないでもない。
 前述のようにかなり彼らの素の部分が出ているアルバムだし、全体として密室性も高いので卓球と瀧の間の親密性のようなものが透けて見える感じがする。本作リリース時のインタビューで卓球の興味深い発言があったので少し引用する。「(今回は瀧の作業量が少なかったのでは、という指摘に対し)スタジオに瀧が来てるってことが実は大事で。そこはなかなか他の人には理解されづらい部分だと思うんだけど。瀧がただいることによって、実は参加していることになるというか。」「その場を共有していないと出てこないものが確実にあって、そこを重要視しているから。仮にその日作業をやらなかったとしても集まるのが電気グルーヴにとって非常に大事というか。」これらの発言を頭に置きつつ本作を聞くとまた違うものが見えてこないだろうか。そして、先のツアーでのバカバカしくも素晴らしいパフォーマンスに繋がっていくのだ。どちらかが死なない限り電気グルーヴは存在する。解散とか休止とか、そんな言葉は意味がない。彼らの「人生」そのものが電気グルーヴなのだから。