無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

野性の証明。

akiko

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 Tボーン・バーネットのプロデュースによる新作。ここ最近はレイ・ハラカミとのユニット「yanokami」としての活動があったが、ソロのオリジナルとしては約2年半ぶり。フルアルバムとなると4年ぶりになる。一般的なイメージとしてのほんわかとしたアッコちゃんを思いつつこのアルバムを聞くと驚き、面食らうことになるだろう。1曲目からして「When I Die」とストレートな言葉でかつての想い人に対しての恨みや懺悔を生々しく吐き出している。まるで遺言のような曲だ。そう、とにかく表現がダイレクトで生なのだ。本作を聞いてまず思ったのは「これはロックだ」ということである。それはTボーン・バーネットのプロデュースがアメリカのルーツ・ミュージックに根ざした志向のものであるということや、単にツェッペリンドアーズをカバーしているから、ということではない。生々しく攻撃的な表現と、その中に彼女の哲学性、高い文学性を落としこんだ音楽そのものがロックとしか言いようのないものであるからだ。
 Tボーン・バーネットは彼女のデビュー作『Japanese Girl』の時からファンだったそうだ。さすが、実にいい仕事をしている。サウンドはベースレスのシンプルな構成で、骨太な音ながらその中心には常に矢野顕子のピアノがある。落ち着いた音ではあるが、次の瞬間にどう展開するのかわからないスリリングさと獰猛さが潜んでいる。彼のプロデュースが彼女の野性を引き出したのか、彼女のテンションがこのサウンドを導いたのかはわからないが、相互に関係しあった結果が本作のロック性に繋がったのではないかと思う。全曲聞き所だがラストの「変わるし」が圧巻。ジャズ的な跳ねるリズムに乗って歌われるのは変わっていく身の回りの世界、離れていく人々への諦念と感謝。その奥には自分もいつかは―という思いもあるのではないか。そして1曲目の「私が死んだら・・・」というフレーズに戻ると、背筋にゾクッとするような戦慄が走るのだ。矢野顕子というアーティストがいかに手に負えない猛獣であるかを示したような傑作。必聴。