無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ストーンズの現在地。

ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト  Shine a Light
■監督:マーティン・スコセッシ
 2006年10月29日と11月1日に、ニューヨークはビーコンシアターで行われたローリング・ストーンズのライヴを撮影したドキュメンタリー映画。「ア・ビガー・バン」ツアーは僕も東京ドームで見たのだけれども、間違いなくここ10年のストーンズでは最高のパフォーマンスだった。スコセッシ自身も自分の映画でたびたびストーンズの曲を使用するなど自他共に認めるストーンズファンだけに、現在のいい状態であるストーンズを可能な限りそのままフィルムに収めようとしたのだろう。余計な演出はほとんど無い。冒頭の、ステージセットをめぐるやり取りやスコセッシがセットリストを直前までもらえないという場面なども、脚色はなく「ストーンズはそういうバンドなんだ」という感じで描かれている。スコセッシが焦る様子がどこまで演技なのかはわからないが、ミック・ジャガーの「神様」ぶりがよく出ていると思う。ライブ演奏以外のドキュメンタリー部分は基本モノクロで撮影されていて、ステージでのパフォーマンスとバックステージの対比にもなっている。途中途中に過去のインタビュー映像などが織り込まれるのだけど、時間的には決して長くない。話されている内容も特に目新しいものではない。しかしその端々に45年の重みが見え隠れする。そして現在のライヴ・パフォーマンスに移ると、そこには現役バリバリのロックンロール・バンドによる最高の演奏がある。
 映画の主役は間違いなくライヴそのもので、ビーコンシアターという決して大きくない会場での濃密な興奮を余すところ無く捉えている。各プレイヤーを追う映像と、全体を捉える映像。そして、最も興奮するのはステージ最前列で見ているかのようなカメラの映像だ。本当に自分がその日、そこで見ていたのではないかと錯覚するかのような臨場感溢れる映像のオンパレード。スコセッシがこの映画でテーマとしたのは「親密性」であるという。バンドの中の、例えばキースとミックが、あるいはキースとロンが、チャーリーがアイコンタクトでロックンロールを転がす瞬間をいかに捉えるのかということ。それに加え、ステージと観客の親密性も十二分にスクリーンに映し出されていたと思う。後半のインタビューシーン。「あなたとロンと、ギターが上手いのはどちら?」という質問に対するキースの答えが泣けた。「ヤツは自分だと言うだろうね。そうだな・・・答えは、どちらも下手だ。でも二人が揃うと最強なんだ。」
 こうして改めて映像で見ると今のストーンズのステージは凄まじいとしか言いようが無い。特にミック。時折のぞく腹筋は65歳の体とは思えないほどにシェイプされていて、ダンスの切れも抜群。曲間のMC以外では、とにかく動きまくっている。にも関わらず、息も切れないし声もバリバリである。一瞬たりと気を抜かず観客を魅了し続けるエンターテイナーぶりは圧巻。この年齢でこのパフォーマンスは最早狂気の域とさえ言ってもいいのではと思う。ゲスト・プレイヤーもいい仕事をしている。ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトは安定したプレイながら見たことないほどの緊張がアリアリで微笑ましい。バディ・ガイは貫禄のプレイでマディ・ウォーターズの「シャンペン・アンド・リーファー」を熱演。そしてクリスティーナ・アギレラはソウルフルなボーカルとダンスで立派にミックと張り合うパフォーマンス。正直言って、ナメてた。こんなに歌える人だと思ってなかった。ストーンズのライヴを収めた映像は正規リリースされているものも含めて数多いが、本作は00年代のストーンズの決定版となる映像作品だろうと思う。ストーンズ自身の記録としてもこの先名作として残るだろうが、ロックのドキュメンタリー映画としても出色の出来。ロックファンならDVDで手元においておくべき必見の一作と言えると思う。
 ロックの歴史も50年を過ぎ、ストーンズに限らず60代に差し掛かっても現役でプレイし続けるバンドやアーティストは数多い。ロックミュージシャンがどうやって年を取り、その最期を演出していくのか。もちろん誰もがストーンズのようにできるわけではないのだが、その最先鋒にして最高の見本がここにはあるのではないかと思う。