無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

デジャヴ。

MAD DISCO(初回生産限定盤)

MAD DISCO(初回生産限定盤)

 シャーベッツ7作目のアルバム。前作から10ヶ月でのリリース。浅井健一のリリース間隔は短い。そしてそのペースが落ちない。実はシャーベッツのアルバムを聞くのは久しぶりだ。ベンジーのソロも余り触れてこなかったので、数年ぶりくらいである。しかし正直な感想を言えば、その間隔が無かったものに感じるほど、僕の知っているシャーベッツそのままだ。ベンジーという人の中にある世界が完全に確立されているので、アウトプットされる音楽にもブレが無いのだと思う。冷え切った空気感に描かれる美と暴力とイノセンスベンジーの持つ世界観や文学性は非常に高い精度で現れていると思う。しかし、悪い見方をするならばこれまでの作品と大きく変わった点も無い。新たな驚きや刺激は薄い。同じ風景やモチーフを角度を変えたり見方を変えたりしているような感じなのだ。
 音楽的にも安定はしていると思うが、マンネリ感は否めない。シャーベッツのサウンドは福士久美子のキーボードやコーラスがフィーチャーされる分ソロやJUDEよりもカラフルではあるが、火花が散るようなバンドのテンションはあまり感じられない。語弊を恐れずに言うと、僕はブランキー解散後のベンジーのソロ活動で最も優れた作品はAJICOの『深緑』だと思っている。今思うと、あれはベンジーというアーティストに対抗し得るUAというシンガー/作詞家がいたことによって化学反応が生じた結果だったのだろう。シャーベッツには(その他のベンジーの活動にも)そういう存在がいないのだと思う。ベンジーの中にある世界は精度よく再現できても、それを飛び越えた表現を生むための触媒となり得る他者がいないのだと思う。ブランキー・ジェット・シティというバンドが存在したことがいかに奇跡だったのかを改めて感じる。
 誤解しないでほしいのだけど、このアルバムはいいとは思う。こんなネガティブな感想を書かれるレベルじゃないのは確かだろう。「Fire Bird」は文句なしにカッコいいし、「KODOU」も感動的だし、「Jamaican Dream」は楽しい。が、ここにある物語はすでに僕が知っているものばかりだ。僕の目の前の世界を塗り替えてくれるものではなかった。こういう既視感が積み重なったことと、多作過ぎるがゆえに追いつけなくなってしまったこと。同じような理由で「ブランキーには夢中だったけど、今のベンジーはあまり・・・」という人は少なくないのじゃないだろうか。