無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

永遠の挑戦者。

Intimacy

Intimacy

 ブロック・パーティ約1年半ぶりの新作。CDでの発売は昨年10月だが、8月にはすでにダウンロードでの配信がスタートしていた。つまり、制作作業が終わってすぐにネットでのリリースを行っていたということになる。ジャック・ホワイトのザ・ラカンターズが昨年レコーディング終了後2〜3週間かそこらで作品をリリースしたことが話題となったが、レコーディングから何ヶ月も経った後のリリースというのがアーティストにとってはストレスだということなのだと思う(もちろん、発売前のリーク防止などの理由もあるだろうが)。レディオヘッドの『イン・レインボウズ』から、音源販売のメソッド自体が従来のレコード会社主体のやり方からアーティスト主導の方式に変化しつつあると言えるのかもしれない。もちろん、今のシステムが残っている限り完全に変わってしまうことはないだろうが、選択肢が増えたことは確かなんだろう。
 で。作品の方だが、プロデュースがジャックナイフ・リーとポール・エプワースの共同名義になっている。つまり、彼らの2ndと1stのプロデューサーである。単純に言えば、過去2作のいいトコ取りをしようということなのかもしれないが、聞いた感触としてはそこに留まらないチャレンジをしているように思える。前作でのシャープなダンスミュージック的アプローチは更に強度を増し、ハード・エレクトロニカ的な音に近づいてきている。その中ではケリーのボーカルすらもサウンドの一要素としてブツ切れに処理されている。と同時に従来のギター主体のエモーショナルな楽曲もあり、トータルで聴くとテンションは高いがなんとも歪でまとまりのない作品に思えてしまう。おそらくは両端のサウンドを融合して独自のハイパーなロックを目指しているのだろうが、本作においてはそれぞれの志向が曲により分断されてしまっている感がある。やろうとしていることはわかるし、挑戦する意気や良しなのだがまだ試行錯誤の段階なのだと思う。本人たちもそれをわかっているから、とっととリリースして次へ進みたかったのではないだろうか。
 ここ2,3年シーンを凌駕しているダンスとロックの蜜月はまだ続くだろうが、どことなく閉塞感が出てきているのも確かだと思う。ブロック・パーティがこのチャレンジを実現させればその閉塞感を打ち破るものになりうるかもしれない、とも思うのだが、どうだろう(あとプロディジーの新作にも期待)。1stのニューウェーブ的ギターロックも好きだったし、2ndの内向的リアル路線も良かったと思うのだけど、ひとところに留まらず常に新しい自分自身を模索しているバンドなのだなと思う。付き合う方としてはどうしても「あの時期が良かった」とか思ってしまうものなのだけど、そのチャレンジ精神こそがブロック・パーティの真髄なのだろう、と漸くわかってきた。